シリーズ日本の環境汚染~土壌汚染~

日本の環境汚染にはどんなものがあるのでしょうか。国の環境基本法では、水質、大気、土壌、騒音およびダイオキシン類の5分野について環境基準を定めています。本シリーズでは代表的な環境汚染についてお話します。なお、本コラムでは、5分野のうち「土壌汚染」の概要と法の制定や改正の歴史などを解説します。

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目次
1.土壌汚染とは
2.土壌汚染防止の法規制
2-1.土壌汚染の経緯
2-2.土壌汚染対策法の制定
2-3.改正土壌汚染対策法
3.最後に(土壌汚染の現状)

土壌汚染とは

土壌汚染は、私たちの生活や食料・水などの汚染に直接つながり、自然環境においても生態系に大きな影響を与える深刻な問題です。土壌汚染の特徴は、土壌を構成する粘土鉱物や腐植物質の性質からあらゆる有害物質を吸着し保持し永年にわたり滞留し続けることです。

土壌汚染の原因には、有害物質を含む産業廃棄物や建設残土などの不法投棄、漏洩によって起こる直接的な汚染と、大気汚染や水質汚濁から生じる二次的な汚染があります。有害物質であるカドミウムや鉛などの重金属は、土壌と結合しやすく表層土壌に留まりやすい性質があります。このため、六価クロムなどの移動しやすい物質を除いて地下水の汚染を引き起こす可能性はあまり高くありません。一方、トリクロロエチレンなどの揮発性有機化合物は土壌に吸着しにくい性質を持ち、土壌に浸入すると下層に移動しやすく地下水汚染を生ずる可能性が高くなります。また、土壌に含まれた有害物質は水や大気に含まれた場合と比較して移動性が低く、拡散、希釈されにくい性質があります。このため土壌汚染の範囲は局所的であり、広範囲に及ぶことはほとんどありませんが、いったん汚染されると長期にわたりその汚染状態が存続するというわけです。

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土壌汚染防止の法規制

土壌汚染の経緯

日本の土壌汚染問題は、明治中期の足尾銅山鉱毒事件や1955年のイタイイタイ病のように鉱山に由来する重金属の農用地汚染から始まりました。汚染された農用地で栽培された米などの農作物を食べたことで重金属が体内に蓄積し大きな健康被害を生みました。このため、日本で最初に制定された土壌に係る法律は、1970年に公布された「農用地の土壌の汚染防止等に関する法律」でした。カドミウムは健康被害、銅及びヒ素は農作物の被害の観点から、米のカドミウム含有量、土壌の銅、ヒ素含有量が基準値として定められました。しかし、戦後の高度成長期には、工業の発達に伴い工場からの排水、漏洩、産業廃棄物などが原因で市街地にも土壌汚染が発生するようになりました。これらの汚染は工場の敷地内におけるもので顕在化しにくく、一般には問題が十分に認識されていませんでした。市街地の土壌汚染で最初に社会問題化したのは、1975年代初めの六価クロムによる土壌、地下水汚染です。その後、1986年に市街地土壌汚染に係る暫定対策指針、重金属・有機塩素化合物等に係る土壌・地下水汚染調査対策暫定指針などが策定され、行政指導という形で対策が進められてきました。土壌汚染は問題視されながらも、大気や水と異なり土壌(土地)は私有財産であることなど対策全般の法制度化には難しい問題がありました。

土壌汚染対策法の制定

このように土壌汚染は外観からは分かりにくいため、市街地の土壌汚染は、典型七公害の中で法に基づく対策がなされてこなかった唯一の分野でした。廃棄物焼却施設の周辺土壌から高濃度ダイオキシンが検出され社会問題化したことや、工場跡地などの再開発に伴って重金属類や揮発性有機化合物などによる土壌汚染が顕在化してきたことなどを受け法制化が進み、2003年「土壌汚染対策法」が制定されました。

土壌汚染対策法は汚染による人の健康被害の防止を目的に、環境基準、調査、区域の指定、汚染の除去、搬出の規制、指定調査機関、指定支援法人などの内容が定められています。2010年の法改正では「有害物質使用特定施設の使用の廃止時(法第3条)」に加え、「3,000㎡以上の土地の形質変更時(法第4条)」に土壌汚染調査が義務化されました。また、事業所等が行った自主調査の結果を都道府県知事に報告し、「区域への指定を申請することができる(法第14条)」ことになりました(詳しくは当社コラム『土壌汚染対策法』を知っていますか?土壌汚染のリスクや法律の概要を徹底解説します!をご覧ください)。

改正土壌汚染対策法

2010年の法改正以降、土地の形質変更時の土壌調査(法第4条)や自主調査(法第14条)により調査結果報告の件数が増加し、土壌汚染が判明する件数も年々増えていきました。また、汚染された土壌のほとんどは掘削除去し搬出されるため、汚染の拡散リスクという新たな課題も浮かび上がりました。2010年の法改正から10年経たず2017年に土壌汚染対策法は大改正が行われ、二段階に分けて施行されました。2018年第一段階施行の主な改正は、法第4条(土地の形質変更)の届出時に併せて調査結果の提出を可能とし、届出から形質変更着手に係るタイムラグを削減したものです。その他の改正は事務的な内容でした。翌2019年の第二段階施行は第一段階に比べて事業者等への影響が大きいのが特徴です。有害物質使用特定施設のある工場における形質変更時の届け出面積の縮小など、調査契機の拡大もありましたが、調査対象深度の縮小(法第4条)や届け出対象範囲の適正化、汚染土壌の移動規制緩和など、事業者の対策コスト負担の軽減と、汚染土壌の拡散リスク低減への配慮がなされました。こちらの詳細につきましては、改めて当社コラムにてお話したいと思います。

最後に(土壌汚染の現状)

土壌汚染対策法が施行されてから20年が経ち、次期改正への検討がなされています。現状の課題のひとつに、区域指定を受けた土地の大半が「掘削除去・場外搬出」の対策が行われていることがあります。掘削除去、場外搬出処理は土地所有者のコスト負担と、掘削搬出工事による環境への影響などが課題とされています。このような課題を解決するためにリスクの見える化、リスク共生の考え方がカギとなり、環境リスクの評価・低減技術や低コストの調査・洗浄技術の開発が進められるものと思います。

私ども指定調査機関として、法に基づく対応を適切に行うことは勿論ですが、土地所有者の事情やリスクに応じた適切な対応策の提示、自治体、住民とのリスクコミュニケーションを支援する役割を担っていかなければいけないと考えます。

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参考資料
【環境省】自治体職員のための土壌汚染に関するリスクコミュニケーションガイドライン(案)
【環境省】土壌汚染対策の現状と主な課題
【国立研究開発法人 国立環境研究所】環境技術解説 土壌汚染調査

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