シリーズ日本の環境汚染~水質汚染~

日本の環境汚染にはどんなものがあるのでしょうか。国の環境基本法では、水質、大気、土壌、騒音およびダイオキシン類の5分野について環境基準を定めています。本シリーズでは代表的な環境汚染の概要と対策をあらためて解説します。

目次
1.水質汚染とは
2.水質汚染防止の法規制
2-1.環境基本法
2-2.水質汚濁防止法
2-3.下水道法
2-4.水道法
3.水質汚染の現状
4.まとめ

水質汚染とは

日本で初めて起きた公害問題は、明治初期の「足尾銅山鉱毒事件」と言われています。鉱山から流出した有害物によって、農作物や住民に健康被害(カドミウム中毒)を与えました。令和になった現代にも傷跡を残すような大きな社会問題であったにもかかわらず、戦後の産業復興による急速な工業化、都市化により工場や事業場などからの産業排水で水質汚染は拡大していきました。1960年代の高度経済成長期には工場排水を原因とするイタイイタイ病(カドミウム中毒)や水俣病(メチル水銀中毒)などの健康被害が再び社会問題となりました。そして、1970年には臨時国会が開かれ公害問題について集中的な審議が行われ(いわゆる公害国会)、公害対策基本法を改正するとともに公害関連14法案が可決・成立し本格的な公害への汚染防止対策が始まりました。今回は公害問題のうち水質汚染の対策についてお伝えします。

水質汚染防止の法規制

環境基本法

公害対策基本法に代わり、環境政策の基本となる法律として環境基本法が1993年に施行されました。水質汚染の対策としては公害対策基本法を承継し、人の健康を保護し、生活環境を保全するうえで維持することが望ましい基準として、河川、湖沼、港湾、沿岸海域など公共用水域及び地下水について環境基準を定めています。人の健康の保護に関する基準としては有害物質27項目、生活環境の保全に関する基準として河川、湖沼、海域ごとに水利用目的に応じてCOD等の汚濁指標を定めています。

水質汚濁防止法

公害関連14法案のうち水質汚濁防止法は、対象となる特定施設のある事業場から排出される水に対して規制基準を定めています。規制基準を大別すると国が定める全国一律の基準として「一律排水基準」、都道府県が条例で定める「上乗せ排水基準」及び、特定な地域(環境基準が達成困難な地域)における「総量規制基準」があります。一律排水基準は有害物質29項目(環境基準値の10倍)とその他の項目として(15項目)があり、不適合事業者には改善命令や懲役・罰金などの罰則が定められています。また、有害物質の排水基準、地下浸透規制については、その当時の汚染実態等により項目の追加、基準値の強化が行われてきました。特に平成23年の改正では地下水汚染の未然防止として、対象施設の範囲拡大、施設の構造基準、定期点検の義務化など具体的な汚染防止の規制も行われました。

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下水道法

水質汚濁防止法が制定されると、下水道事業はそれまでの都市環境の整備だけではなく公共用水域の水質保全への役割が求められました。下水処理場建設などの流域下水事業が急速に進展しました。下水道へ流す排水については公共下水道の機能保全及び公共用水域の水質保全を目的に下水排除基準を定めています。排除基準は直罰基準(特定施設のある事業場)と除害施設設置基準(特定施設のないすべての事業場)があり、規制値は各自治体の条例で定められています。

水道法

水道水が安全できれいな国として、日本は世界でランキング3位です。日本の水道水水質が高水準にあるのは、1957年制定の水道法で定められる水質基準や施設基準によるところが大きいようです。水道法第4条に基づく水質基準は、健康関連31項目+生活関連20項目の基準が省令(平成15年)により定められています。また、水質基準以外にも、水質管理目標設定項目(27項目)、要検討項目(46項目)を設定し、最新の情報・知見をもとに逐次改正が行われています。

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水質汚染の現状

公共用水域の水質測定は、水質汚濁防止法の規定に基づき、環境基準項目を中心に全国の都道府県等(一級河川の国直轄区間は国交省)によって毎年実施されています。環境省による令和3年度の水質測定結果は、「…健康項目の環境基準は全国的にほぼ達成している。湖沼、海域の有機汚泥(COD)や全窒素、全燐による水質汚濁の改善に努力が必要」としてまとめています。

まとめ

水質汚濁防止法による工場・事業場に対する排水規制の強化等により有害物質を含んだ産業排水は減少しました。しかし、私たちの暮らしが豊かになった分、生活排水や廃棄物(ゴミ)が増え川や海は汚染されています。これからは私たち一人ひとりが水質汚染を考え生活していくことが大切です。

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参考資料
【環境省】環境基準
【環境省】水質汚濁防止法の施行について
【国土交通省】下水道
【厚生労働省】水道水質基準について
【環境省】公共用水域/水質測定結果

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