シリーズ日本の環境汚染~大気汚染~
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・シリーズ日本の環境汚染~土壌汚染~
目次
1.大気汚染とは
2.大気汚染の対策
2-1.公害対策基本法
2-2.大気汚染防止法
2-3.自動車排出ガス規制
2-4.悪臭防止法
3.大気汚染と温暖化対策
4.まとめ
大気汚染とは
日本の大気汚染問題は戦前の明治時代初期まで遡ります。明治政府の殖産興業政策により造船や鉄道などのインフラと紡績業や銅精錬業、製鉄業などの近代産業が急速に発展し、都市には町工場等が集中して大気汚染が生じました。また、銅精錬所のある鉱山周辺地域においても精錬に伴う硫黄酸化物によって大気汚染が進行しました。
戦後、日本は石炭をエネルギーとした工業復興により、各地で石炭燃焼の降下ばいじんや硫黄酸化物の大気汚染問題が起こっています。更に1960年代の高度経済成長期には、重化学工業が進み石油エネルギーの消費量が増大。大規模な石油コンビナートなどの公害発生源が臨海工業地帯に集中して立地されました。そうした大気汚染は四日市ぜんそくを皮切りに大きな社会問題として様々な対策が行われてきました。
大気汚染の対策
公害対策基本法
四日市ぜんそくなどの四大公害病により国民の公害への関心が高まり、それまでのばい煙規制法や水質2法では十分に対応できなくなり、1967年公害対策基本法が制定されました。
公害対策基本法では、公害を7公害(大気汚染・水質汚濁・土壌汚染・騒音・振動・地盤沈下・悪臭)に定義し、公害に対する事業者、国、地方自治体の責務が明示され、また、住民の公害防止への協力が義務付けられました。そのほか環境基準の設定、地方公共団体の公害防止計画の作成、公害に関する紛争の処理・被害救済などが規定されました。環境基準は法第9条に「人の健康を保護し、及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準」と規定され、1993年制定の環境基本法に引き継がれています。
大気汚染に係る環境基準は、大きく分けて二酸化いおう、二酸化窒素など燃焼等により排出される「大気汚染物質」と、重金属類や有害化学物質などの「有害大気汚染物質」に分類されています。
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大気汚染防止法
工場・事業場等から排出されるばい煙、揮発性有機化合物及び粉じんを規制するため、1968年に大気汚染防止法が制定されました。大気汚染防止法では、固定発生源(工場や事業場)から排出又は飛散する以下の大気汚染物質について排出基準等が定められています。
・ばい煙は燃焼等に伴い発生する、いおう酸化物、ばいじん、有害物質(カドミウム、塩素、弗素、鉛、窒素酸化物)を云い、その排出基準は大別すると量規制、濃度規制及び総量規制の方法で規制されています。
・揮発性有機化合物(VOC)は浮遊粒子物質及び光化学オキシダント発生の原因の一つであり、大気中で気体状となるトルエン、キシレン、酢酸エチルなど多種多様な物質が含まれます。
・粉じんは物の破砕やたい積等により発生し飛散する物質であり、健康被害の恐れのある物質を特定粉じん(現在は石綿)、それ以外を一般粉じんとして定めています。
・有害大気汚染物質は長期的な摂取により健康影響が生ずるおそれのある物質として248種類のうち、優先的に取り組むべき物質として23種類がリストアップされています。
大気汚染物質の排出事業者には、基準遵守義務が課せられ、違反したものに対し改善命令や使用停止命令が出されるなど厳しく規制されました。また、それを受けた企業の公害防止への努力などで現在では固定発生源による大気汚染の悪化はみられなくなりました。
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自動車排出ガス規制
大気汚染物質の発生源には、自動車、船舶、航空機などの移動発生源もあり、特に大都市においては、自動車から排出される窒素酸化物(NOx)、浮遊粒子状物質(SPM)による大気汚染が著しくなり対策が求められてきました。
大気汚染防止法に基づく自動車単体規制は1973年以降強化され、新車を中心に自動車単体からの大気汚染物質の排出量は減少しました。またオフロード特殊自動車(ショベルカー、ブルトーザーなど)についても2006年から規制が開始されました。その後ディーゼル特殊自動車の排ガス規制が強化され、NOxとPMの排出量は激減しましたが、一方で交通量が多く渋滞が激しい大都市地域などにおいては、自動車排ガスによる大気汚染が深刻化していました。このため、自動車NOx・PM法が制定され首都圏、大阪・兵庫圏、愛知・三重圏の大都市圏において使用できる車は制限され、更に大気汚染が深刻な交差点などを都道府県知事が重点対策地区に指定し対策を実施しています。ただし、自動車排ガスは高度な清浄化技術により有害ガスの排出は大幅に削減されています。
悪臭防止法
悪臭は環境基本法により、大気汚染や水質汚濁などと並んで典型七公害の一つになっています。一般的に嗅覚を通じて気分を悪くさせたり、頭痛・食欲不振を起こさせるなどの影響があれば悪臭と理解され、法で規制がなされています。健康状態そのものに影響を及ぼすような場合には大気汚染と捉えるべきです。
悪臭防止法は原因となる化学物質を特定悪臭物質(22項目)として規制する方法と、物質を特定しないで人の嗅覚による臭気指数を規制する方法があります。規制地域内の全ての工場・事業場が規制対象となり、工場の敷地境界の大気、排出口の排出ガス、排出水の3区分が規制の場所となります。
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大気汚染と温暖化対策
大気汚染は人の健康や生態系などへ被害を及ぼし地域規模で影響が現れる問題です。一方で温暖化は集中豪雨、熱波、台風や干ばつなどの異常気象が世界各地で現れる地球規模の問題です。温暖化の原因である温室効果ガスにはCO2の他に、メタン、ブラックカーボン、対流圏オゾン等の大気汚染物質があり、これらは化石燃料燃焼に由来する割合が大きいとされています。
また、これらの汚染物質はCO2を基準としたときの地球温暖化係数(GWP)は何十倍、何百倍もの温室効果があるとされており、これらすべての物質について排出抑制していくことが重要であるといえます。
まとめ
地球をやさしく覆う大気は80億もの人々や数えきれない生命を育んでいます。しかし人の営みによって大気環境のバランスが崩れ、地球温暖化やオゾン層の破壊など様々な問題が起きてしまいました。崩れてしまった大気の修復は国を超えた対応が望まれます。
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・オゾン層保護・地球温暖化防止とフロン対策
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参考資料
・【国立研究開発法人国立環境研究所】環境基準等の設定に関する資料集
・【独立行政法人環境再生保全機構】大気環境の情報館
・【環境省】大気環境・自動車対策