街の悪臭の源『ドブ川』の謎に迫る

町中を歩いていると、小さな川をよく見かけます。多くは普通の小川ですが時折、とてつもない腐敗臭を放つ川があります。これらは近隣住民からドブ川と呼ばれています。なぜこれらの川はこのような悪臭を放つのか。疑問に思う方も多いと思います。今回はたまに遭遇する河川の悪臭について考えてみましょう。

目次
1.原因
2.発生メカニズムを考える
2-1.発生条件
2-2.条件が整うまで
2-3.悪臭発生
3.対策

原因

こうした河川の悪臭は、多くの場合卵が腐ったようなにおいがします。このにおいは学校の化学室でも嗅ぐことができると思います。ご存じの方も多いと思いますが、これは硫化水素のにおいです。火山から流れる川ならばいざ知らず、なぜこのような町中で硫化水素が発生しているのでしょうか。

発生メカニズムを考える

発生条件

結論から言うと、硫化水素を発生させているのは硫酸塩還元細菌です。この細菌が行う嫌気呼吸の硫酸塩呼吸は硫酸イオンを還元し、硫化水素を発生させます。そのためには高い硫酸イオン濃度と豊富な有機物が存在し、酸素濃度が著しく低い環境が好条件となります。

条件が整うまで

硫酸イオンや有機物は自然にも存在しますが、最大の供給源は生活排水です。大雨などにより排水処理が間に合わなくなると生活排水がそのまま排出されます。こうした排水に含まれる有機物が川底に沈殿しているほか、不法投棄された廃棄物までもが川底に堆積しています。私たちが使用する洗剤には硫酸ナトリウムなどの硫酸塩が含まれているほか、建築材料などにも硫酸カルシウムなどが使われており、川底に沈殿した汚泥には豊富な硫酸イオンと有機物を含んでいることが予想できます。

汚泥には多量の有機物が存在し、これらを餌としてプランクトンが大量発生します。このプランクトンが呼吸することで多くの酸素が消費され、川の溶存酸素は急激に低下します。汚泥となった有機物の一部には還元性をもつものがあり、これらが酸化分解されることでさらに酸素は消費されます。ついには呼吸ができなくなるほど酸素が欠乏してしまうのです。本来であれば、大量に発生した植物性プランクトンの光合成により酸素が供給されるため酸欠に陥ることはありません。しかし都市部においては高い建造物によって日光が遮られるため、日中であっても十分な光合成を見込めなくなります。酸素が回復することは無く、酸欠により多くの生物が死滅、この死骸が汚泥に混ざってさらに有機物となる悪循環が完成します。

こうして豊富な硫酸イオンと有機物が供給され、酸素欠乏によって嫌気環境が形成されていきます。

悪臭発生

硫酸還元細菌は水中の水素を使い、硫酸イオンを還元することでエネルギーを得て、最終的に細菌の代謝物として硫化水素が排出されます。私たちの生活排水や廃棄物が町中の川から発生する悪臭の原因となっていたのです。

対策

悪臭を抑えるために、まずは川底に沈む堆積物は取り除かなければなりません。堆積物を取り除けば硫酸イオンや有機物を減らすことができるため、即効性があります。そして再び悪臭が発生しないように、生活排水の流入を防ぎ、川への不法投棄をやめさせなければなりません。かつては自治体によって川底の清掃が行われたこともありましたが、今では予算がつかなくなったため放置されているところが増えています。もちろん一部の自治体では定期的に清掃を実施されているところもあります。生活排水も今ではそのまま流されることはありませんが大雨などで流入してしまうため、さらなる治水工事や多少コストがかかっても環境にやさしい洗剤などを使う必要があります。

都市環境を改善するためには大衆が行政へ求めるだけではなく、私たちも環境への負荷を考えて行動することが大切なのです。

愛研の水質調査についてはこちら
お問い合わせはこちら

合わせて読みたいコラム
・『悪臭防止法』とは?工場・事業場の悪臭管理と住民の生活環境
・シリーズ日本の環境汚染~水質汚染~

2006年12月より愛研の社内向けに発行している、「愛研技術通信」をPDFファイルとして公開しています。愛研についてもっと知って頂ける情報も満載です。ぜひそちらもご覧ください!
愛研技術通信はこちらから

ALL