pH(水素イオン濃度)が時間が経つにつれて変化する3つの理由

pHは時間が経つにつれて変化することがあります。そのため、試料採取後すぐにpH測定をすることが求められています。それでは、なぜ時間が経つにつれてpHが変わるのでしょうか。ここではその理由について紹介します。

目次
1.採水からpH測定まで時間
2.pHが変化する理由
2-1.空気中の二酸化炭素
2-2.植物プランクトンや藻類による呼吸や光合成
2-3.温度
3.最後に

採水からpH測定まで時間

pHの測定方法はJISなどで規格化されていますが、そこではどのように記載されているのか見てみましょう。JIS K 0102工場排水試験方法では、「試料のpHは化学的、物理的、生物化学的作用などによって迅速に変化するため、試料採取後、直ちに測定する。」と記載されています。pH測定までの具体的な時間は記載されていませんが、「直ちに測定する」ことが求められています。また、厚生労働省の水質基準に係る検査方法(平成15年厚生労働省告示第261号)では、「試料は、精製水で洗浄したガラス瓶又はポリエチレン瓶に採取し、速やかに試験する。速やかに試験できない場合は、冷暗所に保存し、12時間以内に試験する」と記載されています。こちらは、pH測定までの具体的な時間が記載されています。いずれも採水後すぐにpH測定することが求められていることがわかりました。次はその理由について考えてみましょう。

pHが変化する理由

空気中の二酸化炭素

ご存じの通り、空気中には二酸化炭素が存在します。二酸化炭素は水に溶けると炭酸になり、この炭酸が水素イオンと炭酸水素イオンに解離します。

CO2 + H2O ⇄ H2CO3
H2CO3 ⇄ H+ + HCO3

このように、二酸化炭素が水に溶けると水素イオンが生じるためpHが下がる、つまり酸性に傾くということがわかります。もし採水直後のpHがアルカリ性や中性だとしたら、二酸化炭素と反応して時間が経つにつれてpHが下がる可能性が考えられます。ちなみに、水と大気中の二酸化炭素濃度との平衡関係から、二酸化炭素が十分に溶け込んだ水のpHは5.6付近になることがわかっています。これは酸性雨の一つの目安となっています。

植物プランクトンや藻類による呼吸や光合成

植物プランクトンや藻類は、夜間は呼吸を行い、日中は光合成を行います。呼吸とは、有機物を分解してエネルギーを取り出すための反応です。その結果、二酸化炭素と水が生じます。

有機物 + O2 → CO2 + H2O + エネルギー

一方、光合成とは光エネルギー(太陽光)を使って二酸化炭素と水から有機物と酸素を作り出す反応です。いずれも生命活動を維持するために欠かせない反応です。

CO2 + H2O + 光エネルギー → 有機物 + O2

ここで呼吸と光合成の反応を見てみましょう。呼吸を行うと二酸化炭素が生じています。つまり、水中の二酸化炭素が増えるためpHが下がることがわかります。また、光合成では二酸化炭素を用いるため、水中の二酸化炭素が減ります。つまりpHが上がることがわかります。このように、呼吸光合成の反応により水中の二酸化炭素濃度が変化するため、時間が経つにつれてpHが変化する可能性の一つとして考えられます。

温度

pHは温度によっても変わります。それは電離平衡がポイントとなります。水は下の式のように僅かに水素イオンと水酸化物イオンに電離しています。

H2O ⇄ H + OH-

この式は条件によって左方向にも右方向にも進む平衡状態であることを意味しています。ここで条件として温度を変化させることを考えましょう。一般的に平衡状態にあるところに変化(ここでは温度変化)を与えると、その変化を打ち消す方向に平衡が移動します。つまり、温度を上げれば下がる方向に、温度を下げれば上がる方向に反応が進みます。水の電離は吸熱反応(熱を吸収して温度が下がる反応)であるため、水の温度が上がると右向きに進みます。従って水素イオンが増えるためpHが下がります。

〈温度が上がったとき・・・温度を下げようと右向きの反応が進む〉
H2O ⇄ H + OH-
  ⇒⇒⇒⇒⇒

一方、左向きの反応は発熱反応(熱を発して温度が上がる反応)であるため、水の温度が下がると左向きに進みます。従って水素イオンは減るためpHが上がります。

〈温度が下がったとき・・・温度を上げようと左向きの反応が進む〉
H2O ⇄ H + OH-
  ⇐⇐⇐⇐⇐⇐

このように温度変化もpHが変化する要因の一つと考えられます。

最後に

pHが変化する理由について紹介しました。実際にpHを測定するときはガラス電極を使用することが多く、ガラス電極をサンプルに浸すだけで簡単にpH値を知ることができます。しかし、pHは変化しやすということを知っておかないと誤った結果を扱ってしまう恐れがあります。このコラムがpHについて改めて考えるきっかけになれば幸いです。

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