細菌試験のサンプリング手順と注意点
サンプリングは分析における最初の課題となります。後々の分析が高い精度なものであっても、サンプリングをおろそかにしてしまえば意味がありません。サンプリングは分析項目や目的に合わせた方法で行う必要があり、その方法は多岐にわたります。
今回は水質試料の細菌試験におけるサンプリングについてお話します。
目次
1.容器の選択
2.滅菌処理
2-1.滅菌処理とは
2-2.滅菌処理の種類
2-3.汚染防止
3.サンプリング
4.最後に
容器の選択
細菌試験に限らず、サンプリングにおいて容器の選択は重要です。材質だけではなく、リユースする場合は洗浄方法も適切なものを選択しなければなりません。日本産業規格 JIS-K 0350-10-10によると、滅菌処理を行ったガラス製容器又は滅菌済みの細菌試験用のポリエチレン瓶を使用するよう指定されています。水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法(平成15年厚生労働省告示第261号)では容量120ml以上の密封できる容器を滅菌したものと記されています。
なお、残留塩素を含む試料を採取する場合はあらかじめチオ硫酸ナトリウムを試料100mlにつき0.02gから0.05gの割合で採取瓶に入れ滅菌したものを使用します。材質については滅菌済みで市販されているポリエチレン製が一般的と思われますが、ガラス製やポリプロピレン等のプラスチック製容器でも問題ありません。
しかしながら、容器は適切な滅菌処理がなされている必要があります。多くの場合、滅菌処理は高温で行われるため、温度に耐えられる材質である必要があると言えます。
滅菌処理
滅菌処理とは
殺菌や除菌はよく聞くと思います。しかし滅菌はあまり聞きなれないかもしれません。「滅菌」とは病原体・非病原体を問わず、全ての微生物を死滅、または除去する事です。日本薬局方では微生物の生存する確率が100万分の1以下になることをもって、「滅菌」と定義しています。「殺菌」とは文字通り菌を殺すということを指しています。このため、その一部を殺しただけでも「殺菌」といえると解されており、厳密には有効性を保証したものではないともいえます。「除菌」とは目的とする対象物から微生物を除去する事です。ポイントは菌を減らすという事で、完全になくすわけではありません。このように、「滅菌>殺菌>除菌」といった順序で、微生物に対する対応が段階的に強化されていきます。
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滅菌処理の種類
滅菌法は複数種類がありますが、ここでは一般的な方法を紹介します。
乾熱滅菌 | 乾燥した空気を190℃から160℃で30分から120分、加熱することにより微生物の蛋白質を変性させて殺滅します。ただし、耐熱性のガラス製や金属製容器にしか使用できないという欠点があります。 |
高圧蒸気滅菌 | 一定の温度(115℃から134℃)と圧力の飽和水蒸気(空気が排除され蒸気で満たされた状態)で加熱する事により微生物の蛋白質を変性させて殺滅します。オートクレーブと呼ばれる専用の機械が必要になりますが、高圧の水蒸気で滅菌するので乾熱滅菌と比べて多くの材質に対応し、一部の液体も滅菌できます。また比較的短時間で滅菌できるのでもっとも用いられる滅菌方法です。 |
放射線滅菌 | 滅菌に使用されるのは電磁波であるガンマ線・電子線です。温度の上昇も無く、高温に弱い材料に効果的です。しかし放射線はプラスチック(樹脂製品)の場合、材質が劣化する事があります。 |
酸化エチレンガス滅菌 | 酸化エチレンガスを用いて滅菌する方法で、先述の放射線滅菌と同じく温度上昇が少ないため、熱に弱い材料にも使用できます。酸化エチレンガスは有害な気体であり、この方法では滅菌対象に残留するガスを除去する必要があります。温度や材質によってその除去時間は変動しますが、除去に数日から1週間かかる場合もあり、数ある滅菌方法の中でも時間のかかる方法です。 |
他にも様々な方法がありますが、メジャーな方法はこの4つになります。一般的なご家庭で行う場合は乾熱滅菌が現実的と思われます。一部の企業様では滅菌サービスを行っているところもありますので、依頼してみるのも良いかもしれません。
汚染の防止
滅菌後、容器をサンプリングに使用するまでに汚染されないようにする必要があります。市販の滅菌済み容器を使用する場合、密閉した状態で届くため、使用前に開封すればいいのですが、自社で滅菌した容器を使用する場合は使用するまでに汚染されないように工夫しなければいけません。もっとも望ましい方法はクリーンルームやクリーンベンチ内で操作したいところではありますが、そのような設備は一般的ではありません。
一般的な手法としては滅菌に際し、アルミホイルやラップなどを容器に被せておきます。アルミとラップのどちらを使うかは滅菌する方法によって変わります。また、放射線滅菌を除いて、高温の空気やガスを使って滅菌するため、完全に容器を密封すると滅菌できなくなります。そのため容器に被せる程度にとどめ、滅菌後は直ちに封をすることで容器内部が外気にさらされないようにしなければいけません。
サンプリング
続いて試料の採取です。採取に用いる道具はどのようなものでも問題ありませんが、清潔なものを使用しましょう。採取用具を滅菌する必要はありませんが、用具からの汚染を防ぐために検査対象よりも清浄である必要があります。外気による汚染程度であれば問題ありません。試料を採取した後、滅菌容器に移します。この時、容器を満水にしない様に注意が必要です。容器を満たし、容器内の空気がなくなると好気性細菌が死滅してしまうからです。採取後ただちに試験を行うことになっていますが、多くの場合、実験室まで運ぶ必要が生じます。この間に細菌が増殖する可能性があるため、細菌たちの活動を不活性化して運搬します。0℃から5℃程度の冷暗所に保管し、試料採取から12時間以内に試験が開始できるよう実験室に運びましょう。冷やしすぎてしまうと低温に耐えられない細菌たちが死滅してしまうため、注意しましょう。
最後に
ここまでが細菌試験におけるサンプリングの手順となります。細菌試験に限らず、サンプリングというのは後々の結果を大きく左右する要素の一つです。今回は触れていませんが、状況次第では試料の平均性や代表性なども考慮する必要があります。そのため、サンプリングは意外と深い作業であり、手順を誤ると適正な分析値が得られなくなる可能性があります。正確な結果を得るために、注意深くサンプリングを行うことが大切です。
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参考資料
・JISK0350-10-10:2002 用水・排水中の一般細菌試験方法
・【厚生労働省】水質基準に関する省令の規定に基づき厚生労働大臣が定める方法