殺菌・除菌・滅菌の違いって?意外と知らないそれぞれの定義

似たような意味をもつ「殺菌」、「除菌」、「滅菌」という言葉がありますが、皆さんはこれらの違いをどの程度ご存知でしょうか。今回は、それぞれの定義や菌が死滅するしくみについてお話ししたいと思います。

目次
1.殺菌とは
2.除菌とは
3.滅菌とは
4.菌が死滅するしくみ
4-1.加熱
4-2.アルコール(エタノール)
4-3.紫外線
5.まとめ

殺菌とは

文字通り「菌を死滅させる」という意味ですが、すべての菌を死滅させることではありません。どれか1つの菌だけでも死滅させることができれば「殺菌」となります。死滅させる菌の数に明確な定義はありません。この「殺菌」という表現は「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性も確保等に関する法律」(薬機法)上の用語で、「殺菌」と表示ができるものは医薬品や医薬部外品のみと決められています。例えば、病院で処方されるものであったり、ドラッグストアで購入できるものであったりと厚生労働省から効果が認められているものに表示されています。

除菌とは

菌の数を減らすことです。薬機法の対象外で「殺菌」という表現が使えない医薬品・医薬部外品以外の製品に記されていることが多いです。例えば、洗剤や漂白剤などがこれに当てはまります。実は、「除菌」は学術的な専門用語としてはあまり使われていない言葉で、法律上では具体的に規制されていません。そのため、様々な業界団体が各自で「除菌」という言葉を定義づけています。

滅菌とは

有害、無害に関わらず、微生物を限りなく0に近づけることを言います。国際的な基準である無菌性保障水準(Sterility Assurance Level :SAL)では「菌が限りなく0に近い」ことを10⁻⁶個とし、滅菌後に生育可能な1個の微生物が存在する確率で表しています。これは、1,000,000個の菌を滅菌したときに生存する菌が1個しかないという水準を意味します。

菌が死滅するしくみ

菌を死滅させる方法には、大きく分けて物理的な方法と化学的な方法の2つがあります。物理的な方法では加熱や紫外線、圧力などを用いたり、化学的な方法ではガスや消毒剤などを用いたりと様々です。今回は代表的な3つの方法についてお話しします。

加熱

菌は有機物でできているため熱に弱いのが特徴です。菌に熱が加わると、菌の持つ酵素やたんぱく質が変性して機能を失う(失活)ことで死滅します。また、加熱する温度の違いが菌を死滅させる時間に大きく影響するため、適切な温度と時間を守ることが重要です。例えば、食中毒菌で知られるサルモネラ菌は65℃で3分間、病原大腸菌は75℃で1分間以上加熱することで死滅します。特に、バチルス属などの芽胞菌は高い耐熱性をもっているため、「オートクレーブ処理」「乾熱滅菌」などの100℃以上の加熱で死滅させる必要があります。オートクレーブ処理は、加熱と圧力による飽和水蒸気で通常121℃、15分間で菌を死滅させます。乾熱滅菌は電気オーブンを用いた方法で、160~170℃であれば120分間、170℃~180℃であれば60分間で菌を死滅させます。

アルコール(エタノール)

近年、新型コロナウイルス感染症の流行によって日常生活において欠かせなくなったアルコール消毒液ですが、これにはアルコールの一種であるエタノールが含まれています。含まれるエタノールの濃度として、日本薬局方では76.9~81.4 v/v%、WHOガイドラインでは60~80 v/v%が殺菌効果が期待できる濃度として推奨されています。この濃度の状態で菌に作用すると、細胞膜や脂質膜、たんぱく質を変性させたり、溶菌作用を生じさせたりします。では、80%以上の高濃度の状態ではどうなるでしょうか。いっけん殺菌作用が高まるように思えますが、実は高濃度の状態では逆に殺菌作用が小さくなってしまいます。これは、脱水作用が生じて浸透圧による外圧が加わることで溶菌作用を小さくしようとする働きが起こるためです。エタノールによって死滅する菌の種類は比較的多いと言われていますが、全ての菌に効果的というわけではありません。例えば、食中毒の原因にもなるボツリヌス菌などの芽胞を形成する菌にはエタノールの効果はありません。また、脂質膜を持たないノロウイルスのような特殊なウイルスに対しても十分に効果が発揮されません。これらは次亜塩素酸ナトリウムなどが有効です。

紫外線

紫外線が、細菌やウイルスがもつDNAに吸収されるとDNAの破壊が進み、増殖機構を失って死滅します。日常生活の中で洗濯物を外に干すのは、この紫外線の滅菌効果を利用したものの一つになります。紫外線には3つの種類があり、波長の長いほうからUV-A(315~400nm)UV-B(280~315nm)UV-C(100~280nm)に分けられます。なかでも波長が短いUV-Cは、最も滅菌作用が強いのですが、太陽から地表に届く前にオゾン層によって遮られるため、通常地表には届かないのが特徴です。そのため、浄水器の除菌などに使われている除菌装置には紫外線の中でもUV-Cが用いられています。紫外線による滅菌は光を当てるだけなので対象物をそのままの形で菌を死滅させることができ、かつ試薬を使わないため環境への影響も少ないという利点もあることから、国が認めている滅菌方法の一つとなっています。

まとめ

「殺菌」、「除菌」、「滅菌」の3つの言葉にはそれぞれ決められた意味があり、使い分けられています。また、菌を死滅させる方法は今回紹介したもの以外にもまだまだ多くの方法があります。それぞれのメリット、デメリットをよく理解し、用途に合った方法を利用することが重要です。

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参考資料
・【厚生労働省・経済産業省・消費者庁特設ページ】新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について
・【気象庁】紫外線とは

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