水道水に潜む危険『クリプトスポリジウム』感染と予防対策
皆さんはクリプトスポリジウムを知っていますか?多くの方があまり聞き慣れない言葉だと思いますが、人間や哺乳動物(ウシやネコ、イヌなど)の腸に寄生する原虫のことです。この原虫は感染症の原因となり、意外にも身近な水道水に存在している可能性があります。今回は、クリプトスポリジウムの感染経路や評価方法、予防対策についてお話しします。
目次
1.クリプトスポリジウムとは
2.検査、評価方法
2-1.指標菌による検査
2-2.リスクレベルに応じた検査
3.予防対策
4.最後に
クリプトスポリジウムとは
クリプトスポリジウムは胞子虫類に属する原虫です。クリプトスポリジウムに感染すると下痢などを発症し、健康な人であれば約5日~1週間程度で症状が出なくなりますが、HIV/AIDS(エイズ)や免疫不全などの基礎疾患を持っている場合には症状が長く続いて重篤化する恐れがあります。クリプトスポリジウムは通常、人間や哺乳動物(ウシやネコ、イヌなど)の消化管内に寄生し、排出された便から発生した粒子によって感染が広がるとされています。また、水道水に用いられている塩素消毒では死滅しないのが特徴です(耐塩素性)。そのため、何らかの原因で水道水がクリプトスポリジウムで汚染された場合、飲み水や食物を介した集団感染が発生する可能性があります。日本では、平成8年に水道水を介したクリプトスポリジウムの感染が埼玉県越生町で確認されています。
検査、評価方法
クリプトスポリジウムの感染が確認された以降、耐塩素性病原微生物に対する対策の必要性が高まり、平成19年に「水道におけるクリプトスポリジウム等対策指針」が策定されました。これには水道原水のクリプトスポリジウム等による汚染のおそれを簡便に判断するための検査方法や、リスクレベルに応じた検査方法について規定されています。
指標菌による検査
クリプトスポリジウムの検査には顕微鏡観察や遺伝子検査の方法がありますが、より簡便に検査する方法として指標菌を用いた検査法があります。大腸菌と嫌気性芽胞菌は水道原水の糞便による汚染の指標として有効です。大腸菌は、多くの動物の常在菌であり、糞便に多く存在しています。嫌気性芽胞菌はクリプトスポリジウムと同じ耐塩素性で、嫌気性芽胞菌が存在する場合はクリプトスポリジウムも存在している可能性が高いことが分かっています。これらのことから、大腸菌と嫌気性芽胞菌はクリプトスポリジウムの指標菌として、どちらか一方でも検出された場合は「原水に耐塩素性微生物が混入するおそれがある」とみなされます。
リスクレベルに応じた検査
水道原水におけるクリプトスポリジウムの汚染のおそれは、4段階のレベルで分けられています。それぞれのリスクレベルによって、検査する頻度や項目が以下のように異なってきます。
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予防対策
上記で述べた定期的な検査は、クリプトスポリジウム等による汚染をいち早く発見して被害を抑える対策として非常に重要です。では、クリプトスポリジウムを不活性化させる、感染させないためにはどのような対策が必要でしょうか。
クリプトスポリジウム等による汚染が確認された場合、上図のように水道事業者はリスクレベルに応じた対策が必要になります。主にろ過装置、紫外線処理設備の整備です。ろ過後の水の濁度を0.1度以下に維持することや、クリプトスポリジウム等を99.9%以上不活性化できる紫外線照射を行うことなど、条件が細かく決められています。
一方、水道水を利用する側はどのような予防対策を取ればよいでしょうか。クリプトスポリジウムは加熱、冷凍、乾燥に弱いことが特徴です。飲用水の場合は1分間沸騰させれば十分不活性化させることができます。そして、家庭用の浄水器の使用にも注意が必要です。全ての機種がクリプトスポリジウムの除去に有効であるわけではなく、1μmより大きい粒子が確実に除去できるものでないと効果はありません。また、同じカートリッジを使い続けるとクリプトスポリジウムがカートリッジに蓄積するため、適宜交換することも大切です。
最後に
クリプトスポリジウムは一度水道水を介して感染が広まると、大規模な集団感染になりかねません。また、水道水以外にも身近なもので感染する可能性は十分にあります。料理をする前やおむつの交換、ペットの糞の掃除のあとはしっかりと手を洗うなど、日常的にできることを徹底し、未然に防いでいくことが重要です。
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