2023.03.23
コラム

手分析による湿式法の反応を利用した『系統的定性分析』とは

定性分析は、試料中に含まれる成分を化学的に調べる方法です。成分を調べる方法は様々ありますが、金属元素や金属イオンを分析する方法として湿式法と乾式法があります。試料に試薬を加え化学反応させる分析方法が湿式法、試料を溶液にせず行う発光分析、蛍光Ⅹ線や炎色反応などの分析が乾式法です。今回は、手分析で行える湿式法の反応を利用した系統的定性分析について一部ですが、お伝えしたいと思います。

目次
1.系統的定性分析について
1-1.系統的定性分析とは
2.第1族から第6族について
2-1.第1族の分離
2-2.第2族の分離
2-3.第3族の分離
2-4.第4族の分離
2-5.第5族、6族の分離
3.おわりに

系統的定性分析について

系統的定性分析とは

化学的性質が似た金属イオンを試薬でまとめて沈殿させて他の金属イオンと分離し、その沈殿したものを試薬で溶解し再び沈殿させます。このように順次分離を行って最後にどのイオンであるか確認試薬で検出する方法です。この方法によりAg⁺、Pb²⁺、Cu²⁺、Fe³⁺、Zn²⁺、Ni²⁺、Ca²⁺、Mg²⁺、Al³⁺などの金属イオンを第1族から第6族に分離することができます。添加する試薬によって溶解度の差による沈殿の仕方や色の変化があるので反応が分かりやすいのもありますが、分離不十分の場合、金属イオンの確認をしにくいため注意が必要です。機器分析ではすぐに分かることですが、手分析では一つ一つ手順を追って確認していくため、定性分析の難しさを実感するところではあります。

第1族から6族について

第1族の分離

第1族は、Ag⁺、Hg₂²⁺、Pb²⁺の分離です。これらの金属イオンが含まれている溶液に塩酸を滴下すると白く沈殿します。ろ過により分離した液は第2族以降の分析に使用します。沈殿物を試験管のまま湯浴し熱水処理後、ろ過した残渣でHg₂²⁺、Ag⁺の確認、そのろ液でPb²⁺を確認します。第1族の確認反応の一部としてAg⁺場合は以下のような反応になります。

・Ag⁺の確認
沈殿物にアンモニア水を滴加しろ過する。このろ液で①から③のどれかで確認する。
①黒色点滴皿にとり硝酸添加⇒白色沈殿
②よう化カリウム添加後、硝酸で酸性⇒黄色沈殿
③アンモニアの匂いがなくなるまで温浴⇒白色沈殿

第2族の分離

第2族はすず属(As³⁺、Sb³⁺、Hg²⁺、Sn²⁺)と銅属(Cu²⁺、Cd²⁺、Bi³⁺)の分離です。第1属で分離したろ液にアンモニア水で中和後、塩酸とよう化カリウムを加え、図1のキップの装置(※1)で硫化水素を発生させ通じておきます。ろ液は第3族以降の分析に使用します。残った沈殿を蒸発皿に移し、多硫化ナトリウムと水酸化カリウムで処理後にろ過をし、そのろ液ですず属の確認をします。残った沈殿物を硝酸で溶解し、その液で銅属の確認をします。すず属と銅属の各々の一部としてSn²⁺、Cu²⁺の場合は以下のような反応になります。

(すず属の分離)
・Sn²⁺の確認
すず族の確認溶液を温浴後、鉄粉を加え、上澄み液に塩化水銀(Ⅱ)を滴加
白色沈殿その後灰色から黒色に変化

(銅属の分離)
・Cu²⁺の確認
銅属の確認溶液にアンモニア水で中和後にろ過し、そのろ液で①か②で確認をする。
①酢酸とヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムを滴加⇒褐色沈殿
②ベンゾインオキシムを加え、しばらく放置⇒緑色沈殿

図1   キップの装置

※1固体と液体の試薬の反応で気体を発生できる装置、硫化鉄(Ⅱ)の固体と塩酸で硫化水素を発生させることができます。

第3族の分離

第3族は、Al³⁺、Cr³⁺、Fe³⁺、Ti⁴⁺、Zr⁴⁺の分離です。第2族で分離したろ液を加熱し、濃硝酸を添加しさらに加熱後に塩化アンモニウムを加え、アンモニア水で中和し生じた沈殿をろ過します。このろ液は第4族以降の分離に使用します。残った沈殿物を塩酸で溶解し、水酸化ナトリウムで中和後に過酸化水素水を添加します。生じた沈殿をろ過し、その沈殿物でFe³⁺とZr⁴⁺を確認し、ろ液でTi⁴⁺、Cr³⁺、Al³⁺の確認をします。第4族の一部としてFe³⁺、Cr³⁺の場合は以下のような反応になります。

・Fe³⁺の確認
沈殿物を塩酸で溶解し、溶解した液で①か②で確認をする。
①点滴皿にとり、チオシアン酸アンモニウムを滴加⇒血赤色
②ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムを滴加⇒紺青色

・Cr³⁺の確認
ろ液を温浴し、ろ過後のろ液で①か②で確認をする。
①点滴皿にとり、酢酸で酸性にし酢酸鉛を滴加⇒黄色沈殿
②点滴皿にとり、硫酸で酸性にしジフェニルカルバジドを滴加⇒赤紫色

第4族の分離

第4族はZn²⁺、Mn²⁺、Co²⁺、Ni²⁺の分離です。第3族で分離したろ液より塩化アンモニウムを加え、アンモニア水でアルカリ性とし硫化水素ガスを通じた後にろ過をします。そのろ液は第5族以降の分離に使用します。沈殿物に塩酸を加え5分ほどかき混ぜた後にろ過します。このろ液でZn²⁺、Mn²⁺を確認し、沈殿物でNi²⁺、Co²⁺を確認します。第4族の代表としてNi²⁺、Zn²⁺の場合は以下のような反応になります。

・Ni²⁺の確認
沈殿物に塩酸と硝酸を加え、加熱溶解した液に水とジメチルグリオキシムを加え、アンモニア水でアルカリ性とし温浴⇒赤色沈殿

・Zn²⁺の確認
ろ液を加熱濃縮、冷却後に酢酸で酸性にし①か②で確認をする。
①黒色点滴皿にとり、ヘキサシアノ鉄(Ⅱ)酸カリウムを添加⇒白色沈殿
②チオアセトアミドを加えて加熱⇒白色沈殿

第5族、6族の分離

第5族はCa²⁺、Sr²⁺、Ba²⁺、第6族はMg²⁺の分離です。第4族で分離したろ液を加熱濃縮し、水で溶解後に塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム及びアンモニア水を加える。生じた沈殿をろ過し、ろ液はMgを確認、沈殿物でCa²⁺、Sr²⁺、Ba²⁺の確認をします。第5族の一部としてCa²⁺、第6族の一部としてMg²⁺の場合は以下のような反応になります。

・Ca²⁺の確認
沈殿に酢酸を添加し溶解後の液で①か②で確認をする。
①この液で炎色反応⇒橙赤色
②この液に水酸化ナトリウムでアルカリ性にし、NN試薬を少量加える
赤色または赤紫色

・Mg²⁺の確認
ろ液に濃硝酸を加えて濃縮後、水と硝酸で溶解した液で①か②で確認をする。
①点滴皿に採り、チタン黄溶液と水酸化ナトリウムを滴加⇒赤色沈殿
②(NH₄)HPO₄とアンモニア水を加える⇒白色沈殿

おわりに

系統的定性分析による第1族から第6族の分離を手分析で行うためには、それぞれ操作の過程があり複雑です。機器を使用すればすぐに定性できますが、手分析の良さは実際に自ら分析を行いながら、金属イオンの反応を沈殿の色や試薬との化学反応を目視で確認し体験できるところだと思います。一方で危険な作業や試薬を取り扱うことから、知識のある方とともに安全に正しく分析を行うことが必要です。手分析による系統的定性分析を知ってもらうことで、少しでも化学分析に興味を持ってもらうきっかけになれば幸いです。

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参考資料
・定性分析実験 原 重雄 著

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