SDS作成にも役立つ!?『魚類急性毒性試験』について

「魚類急性毒性試験」はご存知でしょうか?以前お話したWET試験とはまた違った生態毒性試験についてお話ししたいと思います。

↓WETについてのコラムはこちら↓
WET試験とは?(前編) ~試験を実施することのメリット~

目次
1.魚類急性毒性試験とは
2.試験方法について
2-1.試験方法
2-2.対象生物
2-3.ばく露方法
2-4.観察
2-5.評価
3.最後に

魚類急性毒性試験とは

魚類急性毒性試験は、工場排水や新規化学物質、化学製品などが水生生物に与える影響を評価する上で重要になります。化学製品などが河川に流れたときに、水生生物にどの程度影響を与えるか、という試験です。こういった化学製品に対する生態毒性試験の対象となる生物は、魚類と甲殻類、藻類の3種類です。以前、WET試験という生態毒性試験をご紹介しましたが、WET試験というものは、排水管理手法のひとつとしての位置づけになります。今回のテーマである魚類急性毒性試験は、化学物質そのものを評価対象としているため、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づく新規化学物質の届出の際や、「農薬取締法」においても農薬の登録の際に試験データが必要になります。
魚類急性毒性試験は、魚類を被験物質に96時間ばく露し、死亡率からLC50を算出することで魚類への影響をみることができます。LC50(Lethal Concentration 50)とは、半数致死濃度といい、試験に用いた魚が半数死亡する濃度のことです。算出したLC50から影響評価を行います。

試験方法について

試験方法

試験方法はJIS(日本産業規格)とOECD(経済協力開発機構)テストガイドラインの2種類あります。JISとOECDの試験方法は似ているのですが、対象生物の推奨種や物質測定の有無、観察間隔の違いなどがあります。

対象生物

試験に使用する魚は、どの種でも良いわけではありません。魚の種類によって毒性の感受性が違うため、ある程度の毒性影響に関する情報が得られている魚種で試験を実施しなければなりません。
JISにおいては、サケ科(ニジマスやカワマスなど)、コイ科(コイ、フナなど)、メダカ科(メダカ、ヒメダカなど)、タップミノー科(グッピー、タップミノーなど)が推奨されています。JISは日本独自の試験ですので、主に日本に生息する淡水魚が対象となっています。OECDにおいては、ゼブラフィッシュやファットヘッドミノー、コイ、メダカ、グッピー、ブルーギルが推奨されています。
弊社では、ご指定がなければヒメダカを用いて試験を実施しています。

ばく露方法

ばく露方法は、止水式と半止水式、流水式の3種類あります。止水式は96時間そのまま水の交換は行いません。この方法は被験物質が時間経過により物質変化を起こさないという前提で実施します。一方、半止水式では1日おきで水の交換を行い、被験物質の安定性が悪い場合に実施します。流水式では、ある濃度の被験物質を常に供給する方法で、半止水式と同様に被験物質の安定性が悪い場合に実施します。5~10段階に希釈した被験物質を10Lのガラス水槽に入れ、そこに魚を投入することでばく露を開始します。

観察

観察は、ばく露開始から2時間後、5時間後、24時間後に行い、24時間以降は1日2回の観察を行います。観察は魚の生死のみでなく、異常行動や魚の外観の変化についてもチェックします。異常行動としては、水面を泳ぐ、バランスを崩しながら泳ぐなどがあります。外観の変化としては、色素沈着、眼球突出などがあります。また、毎日1回、水質検査(pHや溶存酸素など)を測定します。

評価

基本的に96時間後における観察結果を基に評価を行います。死亡率0%の濃度と死亡率100%の濃度、またその間の濃度における死亡率から統計解析によりLC50を算出します。(LC50の算出方法については説明が長くなってしまうので、またの機会にします。)
評価のひとつとして、GHS区分というものがあります。GHSというのは、「化学品の分類および表示に関する世界調和システム」(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals:GHS)であり、化学品の危険有害性を世界的に統一された一定の基準に従って分類し、絵表示等を用いて分かりやすく表示し、その結果をラベルやSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)に反映させ、災害防止及び人の健康や環境の保護に役立てようとするものです。(引用)区分は3つあります。LC50≦1mg/Lが区分1、1mg/L <LC50≦10mg/Lが区分2、 10mg/L <LC50≦100mg/Lが区分3と区分されています。区分1が水生生物に非常に強い毒性に、区分2が水生生物に毒性、区分3が水生生物に有害に該当します。
SDS(安全データシート)をみてみると、環境影響情報の欄に「水生環境有害性(急性)」があり、区分が記載されているかと思います。このように、試験結果を基にSDSの作成にも役立ちます。近年では、使用している化学物質情報を基に毒性影響の予測も可能になっています。

最後に

魚類急性毒性試験は製品開発や化学物質のSDS作成に大きく関わっています。新規化学物質は年々増え続けており、また製品開発も進んでいます。生態系への影響をさらに軽減できるような製品開発にむけて、この試験が役に立てば良いなと思います。

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参考資料
【厚生労働省】GHSとは

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