2022.04.28
コラム

イオンクロマトグラフってなに?

イオンクロマトグラフとは、主に液中のイオン成分の分析に用いられる液体クロマトグラフの一種です。環境水や排水などの水質管理のほか、大気環境測定や食品分野の分析など、幅広く適用されています。ここではイオンクロマトグラフの原理や特徴について紹介します。

目次
1.はじめに
2.分析
2-1.基本的な原理
2-2.分析対象
2-3.検出器
3.ポストカラム誘導体化吸光光度法
4.最後に

はじめに

イオンクロマトグラフは、環境水中の無機イオン分析の目的で1975年にSmallらによって開発されました。現在では前述の通り、無機イオン分析以外にも様々な分野で活躍しています。特徴として、複数のイオン成分を同時に分析できる点や、溶離液やカラムなどの選択性、手分析よりも測定結果に個人差がなく再現性に優れていること等が挙げられます。ただし、イオンにはマイナスの電荷をもつ陰イオンと、プラスの電荷をもつ陽イオンがあり、それぞれ分析条件が異なるため、電荷の違うイオン成分を同時に分析することはできません。

分析

基本的な原理

導入された試料は、溶離液によってカラムへと運ばれ、カラム内に充填されているイオン交換樹脂によって試料のイオン成分が分離されます。溶離液の種類、各イオンの価数や大きさ、疎水性か親水性かなどの違いによって、カラムを通過する速度に差があるため分離が可能となります。カラムから溶出したイオン成分と溶離液はサプレッサーへ運ばれます(サプレッサー法の場合)。溶離液にも特定のイオン成分が含まれていますが、サプレッサーを通すことで溶離液のイオン成分の影響(バックグラウンド)を低減し、試料のイオン成分の測定感度を高めることができます。これにより、低濃度分析を可能にしています。サプレッサーを通過したのち、分離されたイオン成分は検出器へと送られ、溶離液のみの信号との差を計測しピークとして出力されます。保持時間(リテンションタイム)は、使用するカラムや溶離液などの分析条件が一定であれば、標準試料・実試料問わずイオン成分毎に一定であるため、ピークの保持時間が同一であれば同じ成分であるとみなすことができ、定性・定量を行うことができます。

分析対象

・無機イオン
陰イオン ・・・ フッ化物イオン、塩化物イオン、亜硝酸イオン、塩素酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、臭化物イオン、リン酸イオンなど
陽イオン ・・・ アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、遷移金属イオン、希土類金属イオン、アルキルイオンなど
・有機酸 ・・・ 乳酸、ギ酸、酢酸、酪酸、吉草酸など

検出器

・電気伝導度検出器
イオンクロマトグラフに使用される検出器の中で、最も一般的な検出器です。電気伝導度とは抵抗(Ω)の逆数で表し、電気の流れやすさの指標となります。イオン成分によって感度に差がありますが、汎用性に優れています。移動相、反応液、カラムの選択によって、無機イオン、有機酸やアミン類などの検出が可能です。
電気伝導度は温度の影響を受けやすいため、市販の検出器はセル温度を一定に保つ温調機能が備わっており、セル内の溶離液の温度を計測して補正するなどして、温度の影響を除去しています。
・UV/VIS検出器
紫外線(UV)や可視光線(VIS)の吸光度をもとに定量を行う検出器です。目的のイオンが紫外線もしくは可視光線部に吸光性があり、電気伝導度検出器では十分な感度が得られない場合や、ほかのイオンと十分に分離できない場合に有効な検出法です。無機イオン分析においては、一般的に亜硝酸イオン、臭化物イオン、硝酸イオンの定量に用いられます。亜硝酸イオンは、電気伝導度検出器の感度が低く、塩化物イオンのピークが大きいと隠れてしまうため、UV/VIS検出器をよく用います。また臭化物イオンは、電気伝導度検出器ではピークが塩素酸イオンと重なってしまいますが、塩素酸イオンは吸光性を持たないためUV/VIS検出器では検出されず、臭化物イオンの定量を行うことができます。硝酸イオンは電気伝導度検出器でも定量は可能ですが、UV/VIS検出器の方がより感度よく検出することができます。

ポストカラム誘導体化吸光光度法

試料をカラムで分離した後特定の試薬を添加し、吸光度を示す化合物へと変化させ、UV/VIS検出器で測定する方法をポストカラム誘導体化吸光光度法といいます。微量成分の定量や高濃度の対象外成分との分離が必要な場合に用いられます。主な対象物質として、シアン化合物及び塩化シアン、臭素酸、有機酸などが挙げられます。

最後に

イオンクロマトグラフは汎用性が高く、水質試験を始めとして様々な分野の分析に活用されています。測定分析の依頼・ご不明点などございましたら弊社までご相談ください。

愛研の調査・測定についてはこちら
お問い合わせはこちら

合わせて読みたいコラム
ガスクロマトグラフ(GC)について知っていますか?

2006年12月より愛研の社内向けに発行している、「愛研技術通信」をPDFファイルとして公開しています。愛研についてもっと知って頂ける情報も満載です。ぜひそちらもご覧ください!
愛研技術通信はこちらから

参考資料
【一般社団法人 日本分析機器工業会】イオンクロマトグラフの原理と応用
【日本ダイオネクス(株)】イオンクロマトグラフィーによる検出器について

ALL