新型コロナウイルスだけじゃない!PCRを使用した遺伝子検査について

新型コロナの関係で「PCR」という言葉をよく耳にするようになったと思います。水質検査における細菌試験でもPCRを用いて検査ができるようになっています。PCRというものは、遺伝子検査の一手法にすぎません。今回は遺伝子検査(PCR)の基礎についてお話ししたいと思います。

目次
1.遺伝子検査の発展
2.遺伝子検査の原理
2-1.遺伝子とは
2-2.PCRとは
3.最後に

遺伝子検査の発展

メンデルの法則はご存じでしょうか?優劣の法則、分離の法則、独立の法則、この3つの法則を1865年にメンデルが提唱しました。そして遺伝子はDNAからできていること、DNAは2重らせん構造をしていることなど、様々なことが明らかとなりました。遺伝子検査においては、1970年代には遺伝子組み換え技術が利用され始め、DNAの配列解析法やサザンブロット法やノーザンブロット法による一部のDNAの同定の発明、1985年に一部のDNAを増幅させるPCR法が発明されました。そして現在では定量PCR法や次世代シーケンサーによる遺伝子の網羅的解析ができるようになり、農作物の品種改良や親子鑑定がんの特定など幅広く遺伝子検査が活用されています。環境分野においても遺伝子検査を利用することで、河川の水をバケツに1杯汲むだけでその環境に生息する生物の特定もできるようになっています。

遺伝子検査の原理

遺伝子とは

遺伝子検査のお話をする前に、まず遺伝子のことについて少し説明したいと思います。遺伝子とは、遺伝情報の最小単位を表す用語です。(例えば、毛色を決める遺伝子、がん遺伝子など)そして遺伝子はDNA(デオキシリボ核酸)で構成されています。DNAは2本の鎖がからまった二重らせん構造をしており、その鎖は塩基(A、T、G、Cの4種類の物質)が連なった重合体で形成されています。詳細な内容については、コラム「遺伝子(ゲノム)とDNAって実は違う!?詳しく解説します!」をご参考ください。

PCRとは

PCRとは、「Polymerase Chain Reaction(ポリメラーゼ連鎖反応)」の略で、遺伝子を増幅させる方法です。操作手順について簡単に説明いたします。前準備として、増幅させたいDNAの領域を決定します。例えば、レジオネラ属菌にしかない領域を増幅領域に決定したとします。その試験系で増幅した場合はレジオネラ属菌がいる、増幅しなかった場合はレジオネラ属菌がいないと判断できます。そして決定した領域の両端の塩基配列に対して相補的な1本鎖DNA(プライマー)を設計、合成します。このプライマーの配列を間違ってしまうと、調べたいもの以外のものも増幅してしまうので、プライマー設計は大変重要な作業です。検査対象から抽出したDNAとプライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)、マグネシウムイオン(Mg2+)、バッファーを混合し、PCR装置にセットします。このPCR装置内では温度の上昇と下降が繰り返され、DNAが増幅していきます。以下の図は、ある細菌の遺伝子を増幅させるメゾットです。まず、95℃で10秒間保ちます。そして95℃を5秒、55℃を10秒、72℃を20秒という温度変化を45回繰り返す、というものです。


温度変化だけでDNAが増幅するというのは不思議に思いませんか?DNAの特性を活かした方法だからこそなのです。次は温度変化によりDNAがどのように増幅していくかを説明します。

①熱変性
温度を94~98℃に上昇させます。そうすると、塩基間の水素結合が切れ、2本鎖DNAが1本鎖に解離します。
②アニーリング
温度を50~65℃に下降させます。そうすると、プライマーがDNAの相補的な位置に結合します。
③伸長反応
温度を68~72℃に上昇させます。そうすると、DNAポリメラーゼによって結合したプライマーが結合したところを起点として相補的なDNAが合成されます。ちなみに、DNAは5’→3’の方向性があります。

①~③を繰り返し行うことで、DNAが指数関数的に増幅します。たった数時間でDNAを約100万倍に増幅することができます。

温度はプライマーの配列により変わってきます。また機器が変われば設定温度を検討するなど、温度設定はシビアにしなければ、良い反応が得られません。PCRを行ってもDNAが増幅したかどうかはわからないため、別の操作をしなければなりません。電気泳動などがありますが、それについてはまた別の機会でお話しできたらと思います。

最後に

今回はPCRについてお話ししました。次回は定量PCRの一種である「リアルタイムPCR法」についてお話ししたいと思います。

続きはこちら↓
『リアルタイムPCR』って?実用例と併せてご紹介!

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