身近に生息している『鉄バクテリア』が引き起こす問題と検査方法

みなさまは「鉄バクテリア」の存在は知っているでしょうか?身近に生息している細菌ですが、ときたま問題を引き起こしてしまう細菌です。今回はその鉄バクテリアについてお話したいと思います。

目次
1.鉄バクテリアとは
2.鉄バクテリアによる問題
2-1.鉄製のものに穴が開く
2-2.田んぼの水が赤くなる
3.検査方法
3-1.顕微鏡観察
3-2.鉄バクテリアキット
3-3.遺伝子検査
4.まとめ

鉄バクテリアとは

鉄バクテリアは、「鉄酸化細菌」とも呼ばれており、2価の鉄イオンや2価のマンガンイオンを酸化することによって、生育に必要なエネルギーを得ている細菌の総称です。鉄バクテリアは、主に地下水や河川水、井戸水、土壌など環境中に広く生息しています。鉄バクテリアの種類はいくつかありますが、代表的なものは以下の2種類です。

・Gallionella ferruginea
リボンをねじったような特徴的な形態を示します。(写真)

・Leptothrix ochracea
最も分布が広いといわれている種で、長い糸状体(鞘)を形成します。

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鉄バクテリアによる問題

環境中に広く生育する鉄バクテリアですが、増殖することによって私たちの生活する中で様々な問題を引き起こしてしまいます。ここでは、その事象例を2つ挙げてみましょう。

鉄製のものに穴が開く

鉄製の配管やタンクが錆びてしまう、といった事例は多くみられます。鉄表面に傷があると、傷の部分から鉄イオン((Fe2+)が溶出します。そこに鉄バクテリアが存在すると、二価鉄(Fe2+)が酸化されて三価鉄(Fe3+)となります。三価鉄(Fe3+)は水中に含まれている塩基と反応して水酸化鉄(Fe(OH)3)、いわゆる錆こぶを形成してしまいます。井戸水が通る配管などに鉄バクテリアを含む水が流れると、漂っている鉄バクテリアが配管に付着し、増殖することで配管に穴をあけてしまうこともあります。

田んぼの水が赤くなる

田んぼの水が赤くなっているのを見たことがある方はいらっしゃるかもしれません。この現象は赤水と呼ばれ、原因はいろいろありますが、鉄バクテリアによる可能性もあります。田んぼの水に二価鉄が含まれており、そこに鉄バクテリアが存在すると、2-1でご説明した反応と同様のことが起こり、赤水が発生してしまいます。また水面に油膜のようなものが見えることもあり、鉄の薄い酸化被膜なのですが、触ると油膜のようなものがばらける、ということが特徴です。この赤水現象は田んぼだけでなく、川や排水溝でも見られます。特に大きな問題はありませんが、見ると少し困惑してしまいますね。

検査方法

鉄バクテリアの検査方法は3種類あります。調べたい内容や、その事象によって検査方法を選択します。試料の種類としては、水試料、錆びた物どちらでも検査可能です。ではその検査方法についてご説明します。

顕微鏡観察

顕微鏡観察で明確になる鉄バクテリアの種類は多くありませんが、Gallionella ferrugineaやLeptothrix ochraceaといったよく見られるバクテリアの同定を行うことができます。上水試験法をもとに同定を行います。顕微鏡観察では定量ができませんので、次に説明する定量ができる検査項目と合わせて実施することもあります。

鉄バクテリアキット

写真のようなキットに試料を入れて培養し、鉄バクテリアが存在すると、陽性反応が出ます。そして陽性反応が出た日数をもとに、おおよその鉄バクテリアの数がわかります。このキットで検査対象となる菌種は鉄酸化細菌だけでなく、鉄還元細菌も対象に含みます。菌種としては、Gallionella、Crenothrix、Siderecapsa、Thiobacillus ferroxidansです。このように検査対象となる種が多いため、陽性反応が出たとしても、どの種が存在しているのかまではわかりません。逆に、このキットは顕微鏡観察では観察できない細菌も検査対象に入っているため、顕微鏡観察とあわせて行うと良いかもしれません。


↑培養直後


↑培養後-陽性反応

遺伝子検査

知りたい対象菌種の定量をすることができます。先ほどの鉄バクテリアキットでは、検査対象の範囲が広いですが、遺伝子検査は多くて2菌種の定量となります。弊社では、Gallionella/Sideroxydans検出系の検査セットとLeptothrix/Sphaerotilus検出系の検査セットの2種類の検査が可能です。これにより、もし顕微鏡観察でGallionellaが観察された場合、遺伝子検査でGallionellaがどのくらい存在するのか遺伝子検査で調べることができます。

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まとめ

働いている工場で使用している鉄が腐食してしまう原因が、もしかしたら鉄バクテリアによるものかもしれません。一度調べてみてはいかがでしょうか?

これまでは鉄バクテリアにより不具合が生じる事例を挙げましたが、逆に鉄バクテリアを利用することも増えてきています。例えば、鉄イオンやマンガンイオンが多く含まれている水はカナケが強いのですが、鉄バクテリアによって鉄イオンやマンガンイオンを取り除き、水を利用する方法も行われています。身近にいるバクテリアなので、避けるだけではなく、より良い関係性を築きたいですね。

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参考文献
・上水試験法

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