アスベスト問題の今後~残存製品の管理と確実な調査の重要性~

令和3年5月17日。最高裁判所によってアスベストによる健康被害の責任を国と一部建材メーカーにあると認め、10年以上も続いたアスベスト集団訴訟に決着がつきました。続いて令和3年6月9日に、「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律」が成立し、令和4年1月19日に施行されました。健康被害を受けた人々や、今後も増えていく被害者への救済策となります。

目次
1.アスベスト使用の歴史
2.危険性の発見と規制
2-1.危険性の発見
2-2.規制
2-3.日本での規制
3.アスベストの今後

アスベスト使用の歴史

アスベストは耐熱性、耐薬性、耐摩耗性などで優れ、夢の素材などとも呼ばれるほどにその特性は優れていました。その歴史は古く、紀元前3000年のエジプトや紀元前2500年の北欧地域において、布や土器といった形で使用されていたことが分かっており、非常に身近な素材であったことがわかります。中世ヨーロッパでも神聖ローマ帝国のシャルルマーニュ王がアスベストのテーブルクロスを持っていたとされています。東方見聞録にはヨーロッパの燃えない布が鉱物であるとされる旨が書かれています。日本では平賀源内が発見したとされ、1764年に江戸幕府へ火浣布として献上されています。
18世紀後半に産業革命が進むと、その優れた特性は蒸気機関や発電機に使用され始めます。それに伴いカナダをはじめ世界各地で大規模な鉱山が開発されました。

危険性の発見と規制

危険性の発見

19世紀初頭。一部の医師たちがアスベスト鉱山周辺での健康被害が多いことに気が付きます。1933年にアメリカではじめてアスベスト症が診断され、同時期に中皮腫という言葉が医学論文で使用されるようになります。この頃には一部有識者やアスベスト生産産業の上層部はアスベストの危険性を認識していたとされています、1947年にはアスベストばく露により肺がんなどのリスクが高まることが確立されました。

規制

アスベストの危険性発見を受けて1930年代、イギリスでアスベスト工場での換気の義務化などの規制が行われましたが、これはアスベスト工場に限った規制であり、建設など他業種には適用されませんでした。その後、多くの論文でがんや中皮腫のリスクが警告されますが大きな規制は行われませんでした。
アスベストメーカーや関係企業の多くは1930年にはアスベストのリスクを認知していたとされており、一部ではアスベスト関係の報告書を改ざんしその事実が一般の人々に知られないようにしていたとされています。
1967年にイギリスでアスベスト訴訟が起こり、これを機にイギリスでは新たにアスベスト規制が行われました。換気の他、保護具の着用や取扱手順などが定められます。また1971年のアメリカやイギリスでアスベスト被害者の賠償請求が認められた判決が下され、賠償請求への道が大きく開かれます。また、アスベストリスクの隠蔽などから、多くの企業が高額な賠償を迫られ倒産していきました。
1970年代には多くの国でアスベスト規制が行われました。1998年にはイギリスでアスベストの全面禁止が試みられ、1999年には達成されます。
2000年代には多くの国でアスベストは禁止され、今では60ヵ国以上の国でアスベストの使用、販売、製造が禁止されています。

日本での規制

日本では1975年にアスベストの使用を段階的に規制し始めます。まずは5%を超過する吹付石綿の使用禁止がされます。1986年にはクロシドライトの吹付を禁止するも、クリソタイルは使用され続けました。その後も1995年にアモサイトとクロシドライトの使用や製造が禁止されてもクリソタイルは依然として規制されませんでした。2004年になると重量比1%以上のアスベスト使用が禁止され、一般的に使用されている製品は無石綿製品となりました。
現在ではアスベストは使用できなくなっています。しかし、かつてアスベスト工場などに勤めていた多くの労働者とその家族、周辺住民などが被害にあっており、彼らの救済のために2006年にアスベスト健康被害者救済の特別立法が制定されます。しかし、この法律では救済される対象は少なく、病状が指定されていたことから救済されない人も多くいました。
海外と同じく、日本でも多くの訴訟が起こされています。有名なものとして工場労働者たちによる泉南アスベスト訴訟、建築物の新築・改修・解体作業などに従事した作業員たちによる建設アスベスト訴訟の二つがあり、国や企業の責任が認められています。

アスベストの今後

今でも多くのアスベスト含有製品が残存しています。日本においてアスベストの大半は建築材料に用いられたため、規制前に建てられた建築物には多くのアスベスト含有建材が残っています。これらの建築物が飛散防止措置をとらずに解体されたり地震などで倒壊すれば、多くのアスベストが飛散する恐れがあります。建築物を解体する際にはアスベスト含有建材の使用実態を調査することが必要であり、アスベストの含有が確認されれば、作業計画の作成や届け出をしたうえで解体することになっています。アスベストの製造、譲渡、提供、輸入、使用が全面的に禁止されたのが2006年9月。それ以前に建てられた建築物は約3,300万棟もあるとされており、アスベストの危険を完全に除くことは困難です。これ以上の被害を発生させないために、確かな調査が必要になります。

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参考資料
・【環境省】⽯綿に関する基礎知識
・【厚生労働省】建設アスベスト給付金制度について
・【日本環境衛生センター】建築物石綿含有建材調査者講習テキスト
・【法務省】アスベスト訴訟(工場労働者型)
・The History of Asbestos(mesotheliomahub)
・Asbestos Timeline(mesotheliomahelp)
・Chronology of neolithic-early metal age sites at the Okhta river mouth (Saint Petersburg, Russia). M. Kulkova
・Athanasius (2018). On the Incarnation ISBN 978-1-948648-24-0. Science: Asbestos(Time)
・”The History of Asbestos in the UK(Time)
・Classic papers in Public Health: Annual Report of the Chief Inspector of Factories for the Year 1947 by E.R.A. Merewether. David Ozonoff
・”National Asbestos Bans
・Asbestos Industry (Asbestosis) Scheme 1931
・Chronology of Asbestos Bans and Restrictions

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