誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)とは?

誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)は、無機元素の定性定量に用いられる分析法の一つで、溶液の元素分析に欠かせない分析法です。高感度かつ検量線の直線範囲が広いという特徴があるため、環境分析や製品中の微量元素分析、医薬品の不純物分析などの幅広い分野で用いられています。ICPを用いる他の分析法はICP質量分析法(ICP-MS)がありますが、ここではICP-AESを中心に紹介します。

目次
1.ICPとは
2.ICP-AESの原理
3.ICP-AESの装置構成
3-1.ICP-AESの装置校正の例
3-2.試料導入部
3-3.発光部
3-4.分光器
3-5.測光装置
4.原子吸光分析装置との比較
5.最後に

ICPとは

ICPはInductively Coupled Plasmaの頭文字をとったものであり、訳すと誘導結合プラズマという意味になります。様々な気体でプラズマを発生させることができますが、ICP-AESとICP-MSではアルゴンガスを用いてプラズマを発生させます。このプラズマは高い電子密度と6000~10000Kの高温を持っています。

ICP-AESの原理

プラズマ内における原子中の電子の動きを図1に示します。霧状にした試料がプラズマ中に導入されると、試料中の成分元素が原子化またはイオン化されます。さらにプラズマからエネルギーを得て電子が基底状態から高いエネルギー準位E2へ移動します(1)。この状態は不安定であるため、わずかな時間でより低いエネルギー準位E1へ移動します(2)。この時にそのエネルギー差ΔEを光として放射し(3)、この光を分光器により元素特有の原子スペクトル線に分けます。その波長と強度から元素の定性と定量を行います。

図1. プラズマ内における原子中の電子の動き

ICP-AESの装置構成

ICP-AESの装置構成の例

ICP-AESの装置構成の例を以下に示します。

試料導入部

試料導入部は、ネブライザー、スプレーチャンバー、ドレントラップから構成されています。吸い上げられた試料はネブライザーによって微細な霧状となりスプレーチャンバーに送られます。そして細かい粒径のものがトーチ内部へ送られ、それ以外はドレントラップから排出されます。

発光部

発光部は石英製トーチとコイルからなります。トーチの先端にコイルが巻かれており、これに電流を流すとコイルの周りに電磁場が発生します。アルゴンガスがこの電磁場によって電離しプラズマが発生します。スプレーチャンバーから送られてきた霧状の試料は「2.ICP-AESの原理」で示したように、試料中の成分元素がプラズマ中で励起され光が放射されます。

分光器

発光部より放射された光を個々の原子スペクトル線に分離する場所になります。膨大な数の原子スペクトル線から分離する必要があるため、分解能が重要となります。

測光装置

分光器から得られた原子スペクトル線を電気信号に変換する場所になります。光電子増倍管(ホトマルチプライヤ)やCCD(半導体検出器)が利用されています。

原子吸光分析装置との比較

元素分析は原子吸光分析装置(AA)が用いられることもあります。ICP-AESとAAの違いを見ていきましょう。ICP-AESはAAと比較して以下のような特徴があります。

・多元素同時分析が可能
ICP-AESは同一条件で多くの元素を同時に定量することが可能です。一方、AAは測定する元素のホローカソードランプを用意し、単元素ごとに分析しなければなりません。

・検量線のダイナミックレンジが極めて広い
ダイナミックレンジとは、検量線が直線性を示す濃度域のことを言います。ICP-AESのダイナミックレンジは5~6桁と極めて広いため、含有量の高い元素から低い元素まで同時に分析することができます。一方、AAは2桁程です。

・化学干渉の影響が小さい
化学干渉とは、目的元素が共存する元素や分子と難解離化合物を生成することによって原子化が抑制される干渉のことを言います。ICP-AESではプラズマの温度が高いため化学干渉の影響はほとんどありません。一方、AAは化学干渉の影響を受けることがあります。例えばカルシウムを定量する際、リン酸やアルミニウムが共存していると難解離性のCa2P2O5やCaAl2O4を生成し原子化が抑制されます。

・スペクトル干渉が生じる
スペクトル干渉とは、目的元素のスペクトル線と共存する元素のスペクトル線が重なることを言います。ICP-AESではスペクトル干渉のない波長を選択する必要があります。一方、AAは特定の波長の光が目的元素によってどの程度吸収されたかを測定する装置なので、このスペクトル干渉は考える必要はありません。

最後に

ICP-AESについて紹介しました。弊社では主にホウ素の分析に使用しており、使用頻度の高い分析機器の一つです。
今回はICP-AESの紹介なので「4. 原子吸光分析装置との比較」ではAAの欠点ばかりが書かれていると感じるかもしれませんが、そんなことはありません。AAはICP-AESと比較して装置がコンパクト、扱いがそこまで難しくない、価格が安いなどの特徴があります。実際多くの試験法に採用されており、弊社でもほぼ毎日使用している分析機器です。分析機器の特徴を理解してうまく使い分けることが大切ですね。

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