『カビ』の種類について~害のあるものとそうでないもの~
「カビ」と聞くと皆さんはどのようなイメージをもちますか?水回りに生えているカビだったり、ブルーチーズの青カビだったりと様々だと思います。今回はカビの特徴や、身の回りでよく目にするカビについて紹介します。
目次
1.カビの分類
2.カビの特徴
3.害のあるカビ
3-1.Aspergillus flavus(アスペルギルス フラバス)
3-2.Fusarium graminearum(フザリウム グラミネアラム)
3-3.Cladosporium cladosporioides(クラドスポリウム クラドスポリオイデス)
3-4.Penicillium glabrum(ペニシリウム グラブラム)
4.カビの利用例
4-1.チーズ
4-2.清酒
4-3.カツオ節
5.まとめ
カビの分類
カビは生物学の分類では「真菌」というグループに入っており、パンやビールを作るために必要な酵母や、実はキノコもこの分類に含まれています。現在、カビは80,000種以上確認されており、簡単に分類すると接合菌類と子のう菌類、担子菌類および不完全菌類に分類され、それぞれ形状も生態もさまざまです。カビを顕微鏡で観察すると糸のようなものがたくさん絡み合っているのが見えます。このような形状から、カビの大半は糸状菌とよばれています。「菌」という文字が入っていることから大腸菌などの細菌とよく似ているように感じますが、意外にも「真菌」と「細菌」は大きく違います。「細菌」は大きさが0.5~5μmで、DNAを包んでいる核をもたない原核生物であるのに対して、「真菌」の菌糸の太さは5μm以上で核をもつ真核生物です。全ての生物は、核をもつかもたないかのどちらかで分類されますので、この2つは大きく異なるグループということが分かります。
カビの特徴
カビの基本形態は菌糸と胞子でできています。胞子が空気中を浮遊し、どこかに付着してそこから菌糸が枝分かれしながら伸びていくことで増殖していきます。つまり、目には見えていなくても空気中には常にたくさんのカビの胞子が浮遊しているのです。しかし、胞子が付着した先で条件が揃わなければカビは成長することはできません。カビが発生するには「温度」、「湿度」、「栄養素」が必要です。一般的なカビの最適温度は25~28℃で、湿度は80%を超えると急激に増殖しますが、なかには乾燥を好むカビもいます。また、ほとんどの有機物や無機塩が栄養になり、弱酸性下で最も発育しやすく、酸素を必須とすることも分かっています。これらのことから、普段の生活の中で水や埃が溜まりやすいところや手の届かない場所にカビが多く見受けられるのも納得がいくのではないでしょうか。
害のあるカビ
カビの中には「カビ毒」と呼ばれる毒素をつくるものがいます。現在、100種類以上のカビ毒が確認されており、人や家畜の健康に悪影響を及ぼすものとされています。ここでは身の回りでよく見られるカビについて、その影響と合わせていくつか紹介します。
Aspergillus flavus(アスペルギルス フラバス)
不完全菌類に属していて、食品では穀類(ピーナッツやトウモロコシ)に発生することが多いです。天然発がん性物質のなかでも最も強いアフラトキシンというカビ毒を産生するため、注意が必要です。
Fusarium graminearum(フザリウム グラミネアラム)
植物病原性をもつ、アカカビと呼ばれるものの一つです。穀類やその他植物に生え、トリコテセンというカビ毒を発生させて枯らせてしまうことが多く、「麦アカカビ病」の原因となっています。
Cladosporium cladosporioides(クラドスポリウム クラドスポリオイデス)
お風呂場などの身の回りによく見られる一般的なクロカビの一つです。アルコールや熱に弱いため、比較的除菌が可能なカビです。カビ毒のような毒性はありませんが、エアコンなどに繁殖することでアレルギーや気管支疾患の原因になる可能性があるため注意が必要です。結露がたまりやすい場所など、家の中の多くの場所で発生して広がりやすいため、一度見つけたらこまめに除菌することが重要です。
Penicillium glabrum(ペニシリウム グラブラム)
クロカビと並んで日常生活に馴染みのあるアオカビと呼ばれるものの一つです。空気中に常に浮遊しており、パンなどに生えているカビが大抵アオカビと考えられます。毒性はありませんが、アオカビが生えていれば毒性のあるアカカビも生えている可能性があるため、注意が必要です。
カビの利用例
人間にとって厄介なイメージが多いカビですが、なかには私たちの生活を豊かにするカビもいくつか存在します。
チーズ
一般的にアオカビと呼ばれ、不完全菌類のペニシリウム属に属しているPenicillium roquefortii(ペニシリウム ロックエフォルティ)は、「青かびチーズ」と呼ばれるロックフォルトチーズやブルーチーズを作る際に用いられています。一方、カマンベールチーズなどの「白カビチーズ」と呼ばれるものにはPenicillium camemberti(ペニシリウム カマンベルティ)というカビが用いられていますが、カビの種類で見ると同じアオカビのなかまになります。これらのチーズの独特な風味と香りは、カビが産生する酵素や代謝産物の働きによって生み出されています。
清酒
清酒の原料である米麹は米にコウジカビを生育させたものです。コウジカビには多くの種類がありますが、一般的に清酒の生産に用いられるのはAspergillus oryzae(アスペルギルス オリゼ)です。他にも焼酎にはAspergillus niger(アスペルギウス ニガー)などのコウジカビが使われており、それぞれの特性を生かした様々な使い分けがなされています。
カツオ節
カツオ節のなかでも、枯節や本枯節と呼ばれるものにはカビ付けがなされています。一般的には、Eurotium amstelodami(ユーロチウム アムステロダミ)やEurotium chevalieri(ユーロチウム チェバリエリ)などの子のう菌類のユーロチウム属に属するカワキコウジカビと呼ばれるカビが用いられます。カビが生産する脂肪分解酵素の働きや水分の吸収、旨味成分の生成などの効果によって、長期間保存可能な脂肪が少ない上品な味わいのカツオ節が出来上がります。
まとめ
今回紹介したカビの種類は、ほんの一部にしか過ぎません。身の回りにはたくさんのカビが存在し、私たちの健康を脅かすものや食品に活用されているものと様々です。カビ毒の中には熱に強いものもあり、一度カビ毒に汚染されてしまうと食品からカビ毒を取り除くことは困難といわれています。そのため、農産物や食品にカビ毒を作るカビそのものが発生しないように適切に管理することが重要です。
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参考資料
・【農林水産省】かびとかび毒についての基礎的な情報
・【文部科学省】カビ対策マニュアル 基礎編
・【著書】かび検査マニュアルカラー図譜 監修:高鳥 浩介
・【著書】菌・カビを知る・防ぐ60の知恵 編者:日本防菌防黴学会