『自然環境保全法』を対象地域とともに分かりやすく解説します!

日本の自然環境の保全を目的とした法律は、自然環境保全法と自然公園法があります。自然公園法で指定される国立公園、国定公園、都道府県立自然公園は利用を前提として保護、整備されるのに対し、自然環境保全法では極力人為を加えずに後世に伝えることを目的としています。

目次
1.法律の概要
2.原生自然環境保全地域とは
3.自然環境保全地域とは
4.沖合海底自然環境保全地域とは
5.都道府県自然環境保全地域とは
6.最後に

法律の概要

自然環境保全法は自然環境の保全に関する基本的事項を定めた法律で1972年(昭和47年)に制定されました。その目的は、「国民が将来にわたって自然の恵みを受けることができる」ように「自然環境を保全することが特に必要な区域等の生物の多様性の確保その他の自然環境の適正な保全を総合的に推進する」ことです。この法律は、自然環境保全の理念、自然環境保全基礎調査など基本的事項についての規定、自然環境保全基本方針の策定のほか、自然環境保全に関して都道府県が制定する条例に法的な根拠を与えています。また、ほとんど人の手が加わっていない原生の状態を維持している地域や優れた自然環境を維持している地域を、今後も極力人為を加えずに後世に伝えることを目的として原生自然環境保全地域、自然環境保全地域、沖合海底自然環境保全地域として指定しています。また、都道府県が自然環境保全地域に準ずる土地の区域を都道府県自然環境保全地域として条例で制定することができると規定しています。

原生自然環境保全地域とは

原生自然環境保全地域は、人の活動の影響を受けることなく原生の状態を維持している地域で、広さ1000ha以上(島嶼は300ha以上)の地域から指定されます。ここでは、自然生態系に影響を与える行為は原則禁止され、立入制限地区に指定されれば原則立入禁止になります。現在、遠音別岳(おんねべつだけ)、十勝川源流部、南硫黄島、大井川源流部、屋久島の5か所が指定され、南硫黄島が立入制限地区に指定されています。

遠音別岳原生自然環境保全地域
指定年月日: 昭和55(1980)年2月4日
面   積:1,895 ha
所 在 地:北海道斜里郡斜里町、北海道目梨郡羅臼町
特   徴:地理的条件、気候的条件の厳しさから人為的改変がなされず、原生状態が維持されています。標高600mを境として下部はエゾマツ-ダケカンバ林、上部はハイマツを主とする高山性植生となっており、東側斜面にはお花畑が、西側中腹部の湖沼群の周囲には湿性植物もみられます。

十勝川源流部原生自然環境保全地域
指定年月日:昭和52(1977)年12月28日
面   積:1,035 ha
所 在 地:北海道上川郡新得町
特   徴:エゾマツ・トドマツを主とする大規模な針葉樹林で、樹高30mに達するエゾマツが多くみられます。北海道のエゾマツ・トドマツ林は、昭和29年の台風による大きな被害等によって残存するものが乏しく、すぐれた原生林が残る本地域は極めて貴重です。

南硫黄島原生自然環境保全地域
指定年月日:昭和50(1975)年5月17日
面   積:367 ha
所 在 地:東京都小笠原村
特   徴:標高500mから山頂にかけて雲霧帯林が発達しており、大規模な木性シダの林が成立しています。多数の海鳥が生息し、繁殖地として非常に重要であるほか、植生相や動物相は独特
で、エダウチムニンヘゴ、ミナミイオウトラカミキリなど本島固有の種も生育・生息しています。

大井川源流部原生自然環境保全地域
指定年月日:昭和51(1976)年3月22日
面   積:1,115 ha
所 在 地:静岡県榛原郡本川根町
特   徴:ブナを優占種とする温帯落葉広葉樹林からハイマツ帯に至る、中部日本から関東にかけての各植生帯の最も典型的な垂直分布を呈しています。ニホンカモシカ、オコジョ、ヤマネ等、哺乳類の生息密度が高く、多様な植生を反映して昆虫の種類も豊富です。

屋久島原生自然環境保全地域
指定年月日:昭和50(1975)年5月17日
面   積:1,219 ha
所 在 地:鹿児島県熊毛郡屋久島町
特   徴:屋久島は1,000m以上の山岳を有し、高温多雨の気候の下で、照葉樹林から亜高山帯まで植生の垂直分布をなす豊かな森林地帯を有しています。なかでも標高800~1700mの地域にはスギ林が発達し、ヤクスギと呼ばれる樹齢1,000年以上の巨木が多数残存し、世界的に貴重なものとなっています。本地域は、屋久島の中で最もよく固有な林相を残しています。

自然環境保全地域とは

自然環境保全地域は以下の地域から指定されます。
1. 高山性植生又は亜高山性植生が相当部分を占める森林又は草原(1,000ha以上)
2.
優れた天然林が相当部分を占める森林(100ha以上)
3.
地形や地質が特異であり、又は特異な自然の現象が生じている区域(10ha以上)
4. 動植物を含む自然環境が優れた状態を維持している海岸、湖沼、湿原又は河川(10ha以上)
5. 熱帯魚、さんご、海藻その他の動植物を含む自然環境が優れた状態を維持している海域(10ha以上)
6. 植物の自生地・野生動物の生息地のうち、1~5と同程度の自然環境を有している地域(10ha以上)
自然自然環境保全地域は、「特別地区」、「野生動物保護地区」及び「普通地区」に分けられ、開発等の行為や動植物の捕獲が規制されています。現在、以下の10か所が自然環境保全地域に指定されています。

大平山自然環境保全地域
指定年月日 :昭和52(1977)年12月28日
面   積 :674 ha
所 在 地 :北海道島牧郡島牧村

白神山地自然環境保全地域
指定年月日 :平成4(1992)年7月10日
面   積 :14,043 ha
所 在 地 :青森県西津軽郡鰺ヶ沢町、深浦町、中津軽郡西目屋村、秋田県山本郡藤里町

和賀岳自然環境保全地域
指定年月日 :昭和56(1981)年5月21日
面   積 :1,451 ha
所 在 地 :岩手県和賀郡西和賀町

早池峰自然環境保全地域
指定年月日 :昭和50(1975)年5月17日
面   積 :1,370 ha
所 在 地 :岩手県宮古市

大佐飛山自然環境保全地域
指定年月日 :昭和56(1981)年3月16日
面   積 :545 ha
所 在 地 :栃木県那須塩原市

利根川源流部自然環境保全地域
指定年月日 :昭和52(1977)年12月28日
面   積 : 2,318 ha
所 在 地 :群馬県利根郡みなかみ町

笹ヶ峰自然環境保全地域
指定年月日 :昭和57(1982)年3月31日
面   積 : 537 ha
所 在 地 :愛媛県新居浜市、西条市、高知県吾川郡いの町

白髪岳自然環境保全地域
指定年月日 :昭和55(1980)年3月21日
面   積 : 150 ha
所 在 地 :熊本県球磨郡あさぎり町

稲尾岳自然環境保全地域
指定年月日 :昭和50(1975)年5月17日
面   積 : 377 ha
所 在 地 :鹿児島県肝属郡肝付町、錦江町、南大隅町

崎山湾・網取湾自然環境保全地域
指定年月日 :昭和58(1983)年6月28日
面   積 : 1,077ha
所 在 地 :沖縄県八重山郡竹富町

沖合海底自然環境保全地域とは

沖合海底自然環境保全地域は、2010年に名古屋市で開催されたCOP10で「2020年までに海域の10%を海洋保護区として保全する」とした愛知目標に対応したものです。沖合の区域で、海底の地形、地質又は海底における自然の現象に依存する特異な生態系を含む自然環境が優れた状態を維持している区域から指定されます。令和2年12月に以下の4か所が指定されました。これにより、日本の海洋保護区の割合は13.3%ととなり、愛知目標が達成されました。沖合海底自然環境保全地域は、沖合海底特別地区とそれ以外の地区に分けられ、開発等の行為が規制されています。
1. 日本海溝の最南部及び伊豆・小笠原海溝周辺の海域
2. 中マリアナ海嶺と西マリアナ海嶺を含む海域
3. 西七島海嶺を含む海域
4. マリアナ海溝北部の海域

都道府県自然環境保全地域とは

都道府県自然環境保全地域は、自然環境保全地域に準ずる自然環境を維持している地域で、全国で546か所が指定されています。自然環境保全地域と同様に、「特別地区」、「野生動物保護地区」及び「普通地区」に分けられ、開発等の行為や動植物の捕獲が規制されています。愛知県では15の地域が指定されています。

図. 愛知県自然環境保全地域

最後に

日本では開発などで手つかずの自然環境が残されている地域は少なくなっています。自然環境保全法の理念を理解し、貴重な自然環境を後世に伝えていきましょう。

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参考資料
・【環境省】自然環境保全地域
・【愛知県】あいちの環境 愛知県自然環境保全地域

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