水のきれいさによって棲んでいる生物は違います!~水質階級別水生生物~

東海地方には有名な木曽川、長良川、揖斐川をはじめ矢田川、荒川などの川がたくさんあります。アユやニジマスがいるところもあれば、コイやザリガニなどがいるところと川により棲んでいる生き物が異なります。棲んでいる生き物は何によってかわるのでしょうか。様々な要因はありますが、答えのひとつは水のきれいさです。今回は水のきれいさによる生息生物の違いについてご紹介します。

目次
1.水生生物と生物学的水質判定
2.水質階級別水生生物について
2-1.きれいな水(水質階級Ⅰ)
2-2.ややきれいな水(水質階級Ⅱ)
2-3.きたない水(水質階級Ⅲ)
2-4.とてもきたない水(水質階級Ⅳ)
3.水質汚濁の指標と溶存酸素(DO)
4.今回のまとめ

水生生物と生物学的水質判定

水中には魚だけでなく、ゲンジボタルの幼虫やヤマトシジミの貝類などと様々な水生生物が棲んでおり、それらの水生生物を利用して河川の水質を判定する「生物学的水質判定」があります。生物学的水質判定は、きれいな水の河川にはきれいな水を好む水生生物が、きたない水にはそのきたない環境に耐えられる水生生物が生息する特徴を利用して各川に棲んでいる生物の種類・個体数を調べ水のきれいさを判定します。生物学的水質判定には、環境省により指定された全国各地に生息し分類が容易な約30種類の「指標生物」が利用されています。分けられた4つの水質階級(きれいな水(水質階級Ⅰ)、ややきれいな水(水質階級Ⅱ)、きたない水(水質階級Ⅲ)、とてもきたない水(水質階級Ⅳ))ごとに指標生物が決められています。愛知県では昭和60年度から毎年度水生生物調査が実施され、調査地点は直近の令和元年度で79河川等140地点にもなります。

水質階級別水生生物について

それでは水質階級ごとの水質の特徴と指標生物について詳しく見てみましょう。

きれいな水(水質階級Ⅰ)

石がたくさんあり川岸には植物や日陰がある所などの、川底まではっきり見えるほど透明な水が特徴です。愛知県では木曽川・庄内川等水系の上流部、天竜川・豊川水系の一部、矢作川等水系の中流より上流の一部でこの階級地点がみられています。指標生物は、カワゲラ類、ヒラタカゲロウ類、ナガレトビケラ類、ヤマトビケラ類、アミカ類、ヨコエビ類、ヘビトンボ、ブユ類、サワガニ、ナミウズムシの10種類です。各生物の生息地は下表の通りです。

きれいな水(水質階級Ⅰ)の生物の生息地一覧
生物名 生息地
カワゲラ類  渓流の石の間や落ち葉がたまっていて流れがゆるやかな場所に生息している
ヒラタカゲロウ類  急流の石に引っ付いて生息している
ナガレトビケラ類  幼虫は上流から下流の石の間に生息し巣を作らず生息している
ヤマトビケラ類  砂粒で亀のような巣を担いで生息している
アミカ類  腹部にある6つの吸盤で急流の石の上などに引っ付き、藻類を食べて生息している
ヨコエビ類  上流の岩の間、石や水中の落葉の下の狭い隙間に生息している
ヘビトンボ  渓流から中流にかけて川底の石の下に生息している
ブユ類  急流の川底の石や草の表面などに引っ付いて生息している
サワガニ  水深の浅い石の下や川が伏流する湿った陸地に生息している
ナミウズムシ  川底の石に引っ付いて生息している

ややきれいな水(水質階級Ⅱ)

田んぼ付近などにある少し濁っているような水が特徴です。愛知県では天竜川・豊川等水系の上流~下流や矢作川等水系の中流より上流でこの階級地点がみられています。指標生物は、コガタシマトビケラ類、オオシマトビケラ、ヒラタドロムシ類、ゲンジボタル、コオニヤンマ、カワニナ類、ヤマトシジミ、イシマキガイの8種類です。各生物の生息地は下表の通りです。

ややきれいな水(水質階級Ⅱ)の生物の生息地一覧
生物名 生息地
コガタシマトビケラ類
 平地の川に砂で巣室をつくり生息している
オオシマトビケラ  低山地から平地の川に、砂で巣室をつくり生息している
ヒラタドロムシ類  渓流部の石の表面に引っ付いて生息している
ゲンジボタル  水深約10~50㎝である程度、流れのある小石の隙間に生息している
コオニヤンマ  低山地の流水中の砂礫底に生息している
カワニナ類  主に流れのある砂まじりの川底や石に引っ付いてるが、用水路のコンクリート壁などにも生息している
ヤマトシジミ  海水の混じる河口から汽水域の水深1~2mの砂礫や砂泥の底に生息している
イシマキガイ  淡水から汽水域で石に引っ付いて生息している

きたない水(水質階級Ⅲ)

住宅が多く排水路がつながっている所や海水の混じる、川底が泥っぽい所などの水が特徴です。指標生物は、ミズカマキリ、ミズムシ、タニシ類、シマイシビル、ニホンドロソコエビ、イソコツブムシ類の6種類です。各生物の生息地は下表の通りです。

きたない水(水質階級Ⅲ)の生物の生息地一覧
生物名 生息地
ミズカマキリ
 水田や池、沼、流れのゆるやかな川岸に生息している
ミズムシ  川や池、湖沼に生息している。富栄養化が進むとより繁殖する
タニシ類  流れのゆるやかな落葉などの沈殿物のある泥底に生息している
シマイシビル  河川や用水路、水田などあらゆる所の石などの裏側に生息している
ニホンドロソコエビ  海水の少し混じった汽水域で泥の多い川底に生息している
イソコツブムシ類  海水の少し混じった汽水域で砂まじりの川底や石の間に生息している

とてもきたない水(水質階級Ⅳ)

工場地帯・住宅街にある川岸がコンクリートなどで造られゴミの溜まりやすい所などの灰色っぽく濁った水が特徴です。指標生物は、ユスリカ類、チョウバエ類、アメリカザリガニ、エラミミズ、サカマキガイの5種類です。各生物の生息地は下表の通りです。

とてもきたない水(水質階級Ⅳ)の生物の生息地一覧
生物名 生息地
ユスリカ類  河川や側溝など流れのある所に泥で巣を作って生息している
チョウバエ類  下水や排水溝に生息している
アメリカザリガニ  流れがゆるやかで泥が多く浅い川底に生息している
エラミミズ  主に側溝や下水管等に集団で生息しているが、生命力が強い為どんな場所でも生息できる
サカマキガイ  基本的には河川に生息しているが汚染された水にも適応能力が高い為、幅広い所で生息している

指標水質汚濁の指標と溶存酸素(DO)

前項では川に棲む水生生物による水質判定について説明しましたが、ここでは化学分析の面から見た水質汚濁の指標についてお話します。水質汚濁の指標としてpH・溶存酸素量(DO)・生物学的酸素要求量(BOD)・浮遊物質(SS)などがあります。その中でも溶存酸素量は水生生物にとって直接的に必要なものになります。「溶存酸素」(DO=Dissolved Oxygen)とは大気中から水に溶け込んでいる酸素(O₂)の量のことです。私たちが呼吸をするために空気中の酸素を必要とするのと同じように水生生物も水中の溶存酸素で呼吸をしています。水生生物が生存するには3㎎/L以上の溶存酸素が必要といわれており、溶存酸素が低い場合は窒息死することもあります。溶存酸素量は水温や塩分、気圧等に影響を受け変化し、水温が高くなるほど酸素が溶け込みにくくなります。また、溶存酸素量は水質汚染の程度によっても変化します。水質階級ⅢやⅣのようなきたない水には有機物が多く好気的微生物により有機物の分解が行われています。分解に伴い多くの酸素が消費され、溶存酸素量は少なくなります。その反対にきれいな水では、有機物が少なく分解に使われる酸素も少ないので溶存酸素量は多くなります
溶存酸素量と同じようにpHや生物学的酸素要求量なども生物が棲むにあたり重要な要因となっています。そのため、水質汚濁の指標に関する調査は河川にもよりますが、毎年定期的に実施されています。そして水質を評価するための環境基準と比較し、その達成率を国や各自治体のHPなどで公表しています。このような調査・分析は弊社のような環境調査会社が行っています。
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今回のまとめ

夏、遊びに行く川や近くの川でどんな生物が棲んでいるか調べてみて下さい。特別な分析器具がなくてもできる、生物を利用した水質調査です。環境汚染が大きな問題になっている今、私たち一人一人が身近にある自然環境を守っていくことがとても大切です。そして少しでも水質にご興味を持って頂けたらぜひ愛研にご連絡下さい。
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参考資料
・【長野県教育情報ネットワーク】水生生物による水質調査
・【愛知県】令和元年度水生生物調査の結果について
・【横浜市】溶存酸素量(DO)
・【本巣市】水生生物調査について 
・本「生物による水質調査法」著者:津田松苗 森下郁子

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