水の汚れを測る指標『TOC』の基本と測定方法
河川の水や普段口にしている飲料水の汚れを示す代表的な水質指標のひとつに、TOCがあります。今回は、TOC測定の原理と基準についてお話しします。
目次
1.TOCとは
2.TOC測定の原理
2-1.TC-IC法
2-2.NPOC法
3.水道水のTOC
4.最後に
TOCとは
TOCとは全有機体炭素(Total Organic Carbon)の略で、水中に存在する有機物を構成する炭素の総量を表します。有機物の種類に関係なく、炭素の総量を示すことから「水の汚れ」具合を示す代表的な水質指標の一つとして扱われています。
炭素の総量を測定する方法として他に、BODやCOD、過マンガン酸カリウム消費量分析があります。しかしこれらの分析では、有機物の種類によって値が変動したり、分析に時間がかかってしまったりなど、有機物の指標として用いるうえでの問題点がいくつか挙げられています。一方でTOC測定は、共存物質からの妨害を受けにくく、より正確に有機物の総量を知ることができます。
TOC測定の原理
TOC 計の測定方式には、燃焼酸化非分散赤外線吸収方式、湿式酸化非分散赤外線吸収方式、及び紫外線酸化分解導電率方式等の測定方式があります。燃焼酸化の最大の特長は不溶解性有機物や高分子有機物のような難分解性有機物を効率的に酸化できる酸化力です。そのため、ここでは一般的な方法である燃焼酸化非分散赤外線吸収方式についてお話しします。燃焼酸化非分散赤外線吸収方式には主にTC-IC法とNPOC法の2種類の測定方法があります。
TC-IC法
TCは全炭素、ICは無機炭素を意味します。例えば、溶存二酸化炭素や炭酸イオンなどが無機炭素に含まれます。無機炭素は、pHが低くなる(酸性)とほぼすべて溶存二酸化炭素となる性質があります。これを利用して、まずTCを測定した後、酸を添加して酸性にした試料をCO2フリーの気体で通気することで無機炭素を全て二酸化炭素として抽出し、測定します。すなわち、全炭素の測定値から無機炭素の測定値を引いた値をTOCとする方法になります。
NPOC法
あらかじめ酸の添加と通気処理を行うことでICを揮発させ、試料のTOCを測定する方法です。
水道水などのTOC濃度が低い試料の場合、TC-IC法ではTCとICをそれぞれ分析する必要があり、TOC値にそれぞれの測定誤差が含まれてしまう可能性があります。また、試料量や分析時間がNPOC法よりも多く必要になるため、一般的にはNPOC法が用いられます。
一方で、揮発性有機化合物を多く含む試料などはNPOC法の通気処理の際に揮発性有機化合物が揮散してしまうことから、TC-IC法が利用されています。
水道水のTOC
水道水の水質基準は、昭和32年に水道法が制定されてから、常に最新の科学的知見を基に項目の追加や削除、数値の見直しなどがおこなわれてきました。現在は51項目について基準値が定められ、TOCもそのうちに含まれています。TOCの基準値は3mg/L以下です。
水道における有機物の指標としてTOCが用いられるまで、日本では過マンガン酸カリウム消費量が利用されてきました。1877年コレラ発生に伴う井戸水の水質判定として用い、これを1886年に日本薬局方における常水の有機物指標として用いられたことが始まりです。しかし、上記1.でお話した通り、過マンガン酸カリウム消費量の分析において様々な問題が挙げられたため、厚生労働省において過マンガン酸カリウム消費量とTOCとの相関性について調査が行われ、平成15年にTOCに移行することが決定し、水質基準としてTOCが5mg/Lとすべきであるとしました。そして、平成21年には、TOCの基準値を3mg/Lに強化する改正が行われ、現在に至ります。
最後に
水中に含まれる有機物の種類はとても多く、一つ一つの有機物を分離・測定することは極めて難しいです。TOCは水中に含まれる有機物全てを表す指標となるため、水の汚れ具合を一目で知ることができます。また、飲料水であれば美味しさにも影響してきます。しかし一方で、外部からの有機性の不純物の影響を受けやすい欠点もあるため、分析する際は十分に注意が必要です。
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・pH(水素イオン濃度)が時間が経つにつれて変化する3つの理由
・水の品質を見逃すな!『専用水道』の水質検査項目とその意義
参考にしたURL
・【厚生労働省】有機物の指標について(TOC基準値案について)
・【島津製作所】TOC入門
・【環境省】水溶性有機炭素成分測定方法 第2版