『悪臭防止法』とは?工場・事業場の悪臭管理と住民の生活環境

規制地域内の工場・事業場の事業活動に伴って発生する悪臭は、悪臭防止法という法律に基づいて各事業場で悪臭を管理し、住民の生活環境に影響を与えないような状態にして排出しなければなりません。今回は、悪臭防止法についてご紹介します。

目次
1.背景
2.悪臭防止法の概要
3.規制方法について
3-1.規制地域と規制基準
3-2.規制方法の種類
4.まとめ

背景

第二次世界大戦後における高度経済成長による工業界の活発な生産活動に伴い、全国の主な工業都市に公害が発生し、住民に大きな被害がでました。有名なものでは四大公害病として有名なイタイイタイ病や水俣病のような水質汚染の他、四日市ぜん息といった大気汚染が原因による公害も発生しました。

大気汚染等による公害の発生をうけ、昭和37年(1962年)「ばい煙の排出の規制に関する法律」が制定されました。ばい煙について規制が行われたことにより、効果を発揮した物質もありましたが、規制が比較的緩く、大気汚染問題の解決には至りませんでした。

悪臭については、昭和42年(1967年)に「公害対策基本法」が制定されました。この法律の制定により悪臭が典型公害7種の1つとして規定されましたが、悪臭物質の把握や測定、被害と悪臭の量的な関係の推定が難しかった事に加え、悪臭が感覚的公害であることから、規制基準が定められませんでした。

その後、悪臭についての研究が進んだことにより、悪臭を発生しないようにする防止技術が向上し、測定方法も確立したため、1971年に「悪臭防止法」が制定されました。悪臭防止法では、悪臭の主要構成物質を特定悪臭物質として指定し、規制基準値を定めることによって物質濃度による規制が始まりました。しかし、発生する臭いは複合臭であり、悪臭の主要構成物質のみである特定物質の物質濃度分析では充分な効果があげられませんでした。そこで1996年に法改正を行い、嗅覚測定法(人がにおいを嗅いで測定)による臭気指数の規制が導入されました。

悪臭防止法の概要

悪臭防止法は、工場その他の事業場における事業活動によって発生する悪臭について必要な規制を行い、その他悪臭防止対策を推進することにより、住民の生活環境の保全や健康の保護することを目的としています。この法律は、悪臭を防止するために、規制地域を指定し、その地域で発生する悪臭に対して規制基準が設けられ、これを遵守するように規定されています。悪臭防止法では、他の法律に見られるような特定の業種や施設規模などの指定はなく、事業活動によって発生する悪臭すべてが規制対象となっています。また、発生した悪臭が規制基準値を超えて、周辺の生活環境が著しく損なわれている場合には改善勧告され、それでも改善されない場合には改善命令が出されます。

規制方法について

規制地域と規制基準

悪臭防止法では物質の種類、施設の種類・規模等の指定はなく、すべての事業活動によって発生する悪臭が対象であり、規制地域に対して規制基準が定められています。

規制地域

都道府県知事が、住民の生活環境を保全するため悪臭を防止する必要があると認める地域を指定します。以前は都道府県知事のみでしたが、地域特有の生活状況(例えば漁港や牧場が盛んな地域では魚貝や畜産から発生する臭いが生活に根付いているため発生した臭いを悪臭とは思わない・同じ臭いが住宅地域においては微臭であっても悪臭に感じるなど)をより把握している市長も指定できるようになりました。指定される規制地域は3種類あり、住宅地域である第1種地域工業・商業地域等の第2種地域工業専用地域の第3種地域にわけられます。

規制基準

規制地域における自然的、社会的条件を考慮して、特定悪臭物質又は臭気指数の規制基準を定めています。規制対象は3種類に分けられます。悪臭を発生させている発生源のある事業所との境目で採取する「敷地境界線」(1号規制)、煙突等の気体排出口の出口で採取する「気体排出口」(2号規制)、事業所から敷地外に排出される排水口からの「排出水」(3号規制)があり、それぞれに規制基準値が定められています。規制基準値は第1種地域が一番低い値で厳しく設定され、第2種地域・第3種地域の順で規制値は高く設定されています。例えば、愛知県の臭気指数の規制はこのようになっています。

敷地境界線における規制基準
規制地域の区分 第1種地域 第2種地域 第3種地域
臭気指数 12 15 18

煙突等の気体排出口における規制基準
規制基準は、気体排出口からの悪臭の着地点での値が敷地境界線における規制基準の値と同等となるよう、悪臭防止法施行規則(昭和47年総理府令第39号)第6条の2に定める方法により算出した値

煙突等の気体排出口における規制基準
規制地域の区分 第1種地域 第2種地域 第3種地域
臭気指数 28 31 34

引用:愛知県 悪臭に係る規制地域及び規制基準

気体排出口については、悪臭を排出する煙突等の高さや周辺の建物の状況により、排出された悪臭が拡散し希釈される具合が変わってくるため、規制基準の計算方法が異なってきます。煙突から悪臭が排出する際、煙突が高く排気ガスの温度が高温であれば、排出された気体は上空高くに放出されるため遠くへ拡散されやすくなり、煙突や排気ガスの温度が低ければ、気体排出口から上空に浮上しないので拡散されにくくなります。気体排出口周辺に気流を遮るような建物が無ければ悪臭は風に乗って拡散(希釈)されますが、周辺に高い建物がある場合には気体排出口から排出された悪臭が流れて建物にあたり、建物周辺に起こる巻き込み流によって悪臭があまり拡散されない(臭う)状態で地上に降りてくることが考えられます。

悪臭測定を行う時には、苦情となる悪臭が発生している条件(時間帯・風向き・作業内容等)を事前に確認して実施しますが、気体排出口の悪臭測定の場合はそれに加えて規制基準を算定するために周辺建物高さや排ガスの温度、煙突の高さ・流速等の情報が必要となる場合があります。

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規制方法の種類

悪臭防止法では悪臭を規制対象とする規制方法が2種類あります。特定悪臭物質22物質の各単ガス濃度と臭気指数による規制基準を設けており、どちらか一方で規制されています。どちらの基準が適用されるのかは自治体によって異なるため、事前に確認が必要となります。

特定悪臭物質濃度規制

特定の悪臭物質(現在は悪臭の主要構成成分である22物質)の濃度で規制します。
し尿臭のアンモニア、腐った卵やキャベツ臭の硫黄化合物(4種類)、腐った魚臭のトリメチルアミン、甘酸っぱい焦げ臭のアルデヒド類(6種類)、シンナーやガソリン臭の有機溶剤(6種類)、むれた靴下・汗臭の低級脂肪酸(4種類)が政令で指定されています。

1号基準ではアンモニア、トルエンなど全22物質、2号基準では硫化水素、キシレンなど全13物質、3号基準ではメチルメルカプタン、硫化水素など全4物質が規制の対象となります。これらはその物質に合わせた採取方法で採取され、特性にあった分析機器・分析方法で各悪臭物質の濃度を測ります。どれくらいの濃さなのか数値を知りたい、脱臭装置の性能を調べたい、何が悪臭の主要な成分なのかを知りたい場合に向いていますが、調べられる種類が22成分に限られるため、それ以外のもので悪臭が構成されている場合などは、分析結果と感覚的な悪臭の強さが合わない場合があります。

臭気指数規制

人間が実際に悪臭を嗅いで数値化する方法です。特定の物質にしばられることがなく、複合臭や薄い微妙な臭いについても測定することができます。

現地で採取した敷地境界や気体排出口の気体試料を、におい袋と呼ばれる3L容量の袋に希釈して封入します。同じ容量・外観のにおい袋2枚には、無臭空気のみ封入します。合計3点の袋を6名以上の嗅覚試験に合格した人(パネル)が嗅ぎ比べて、3つのにおい袋の中からにおいがする袋を1点選びます。敷地境界では正解率が一定以下、気体排出口ではパネルが不正解になるまで気体試料を希釈しながら試験をすすめます。簡単に言うと、「濃度を調べたい悪臭」を鼻で嗅いだ時に、不快であったり臭いにおいがしたら「悪臭」なのだから、その悪臭を何倍に希釈したらにおいとして人が感知しなくなるか?を調べる方法となっています。この時の希釈倍数が、においの濃さを数値化して表した結果となります。分析の結果から法律に定められた方法で計算し、得られた希釈倍数が臭気濃度、希釈倍数を指数にして10倍にしたものが臭気指数となります。

どちらの規制方法でも、悪臭を分析した結果が規制基準値を超えてはいけません。

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まとめ

悪臭防止法について、法律の背景や概要、規制方法ついて簡単にまとめてみました。悪臭の発生する地域によって規制区分、規制方法や基準値も異なり、物質濃度で測定を行う時には物質により採取・分析方法も異なるため注意が必要です。

弊社には計量証明機関として、多くの測定実績があります。悪臭の測定についてご相談などございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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参考資料
【環境省】大気環境・自動車対策悪臭防止法の概要
【愛知県】悪臭に係る規制地域及び規制基準

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