六価クロムって一体なに?
六価クロムは原子番号24のクロムのなかで、酸化数が+6であるものの総称です。
六価クロムとは
原子番号24のクロムは、主に金属クロム、三価クロム及び六価クロムの形態で存在しています。このうち酸化数が+6のものを総称して六価クロムと呼んでいます。クロムは地殻中に約140ppm存在し、ほとんどが三価クロムで存在し、六価クロムは主に人為起源と考えられます。
代表的な六価クロムの化合物としては三酸化クロム(CrO3)や二クロム酸カリウム(K2Cr2O7)などがあります。工業用途としては、メッキや塗料など表面処理の材料として使用されているほか、窯業原料、皮なめし、酸化剤などに使用されています。
有害性
六価クロムは強い毒性を持ち、国際がん研究機関(IARC)はグループ1(人に対して発がん性がある)に分類しています。溶液に触れたり、非常に細かい粒子を吸い込むことによって、皮膚や粘膜に炎症が生じることが知られています。クロム酸を取り扱う作業場の労働者に、鼻の中に穴が開く鼻中隔穿孔が発生した事例が報告されています。これは六価クロムを含む粒子を長期間鼻から吸収し、鼻中隔に慢性的な潰瘍が発生したためと考えられています。
酸化還元反応
六価クロムは酸化力が強い物質です。六価クロムの有害性はこの強い酸化力に起因していると言われています。
硫酸酸性にすると特に強力な酸化力を発揮します。この強力な酸化力を利用し、以前は、実験器具を洗浄するために使用していました。ガラスに付着した油汚れなどの有機物を分解し洗浄します。今は、有害性が指摘されたことから使用しなくなりました。
強い酸化力を持つ六価クロムは反応性が強く不安定な物質で、相手を酸化すると、自身は還元され安定な三価クロムになります。ところが熱などの影響で三価クロムが六価クロムに酸化されてしまうことがあります。
例えば、コンクリートの原料であるセメントは、微量の六価クロムが含まれていることがあります。これは、セメント原料に含まれる三価クロムが、セメント製造過程の高温で焼成する工程で酸化され、六価クロムに変化したためと考えられています。
法的規制
六価クロムは水質、廃棄物で規制基準が設けられています。
飲料水に係る法律である水道法の水質基準値は0.02mg/Lです。河川などの公共用水や地下水では環境基準が定められています。基準値は0.02mg/Lです。2022年4月から強化されました。土壌の環境基準では溶出量の基準が0.05mg/Lです。土壌汚染対策法では溶出量の基準が0.05mg/L、含有量の基準が250mg/kgです。工場や事業場から排出される水の基準は0.5mg/Lです。産業廃棄物では汚泥などの溶出量の基準が1.5mg/L、廃酸や廃アルカリなどの廃液の基準が5mg/Lです。
大気汚染での基準は設けられていませんが、有害大気汚染物質の優先取り組み物質に指定されモニタリング調査が行われています。
六価クロムを製造したり取り扱う作業場などでは、作業環境測定が義務付けられています。基準値(管理濃度)は0.05mg/m3です。
分析方法
分析方法は、原子吸光光度計、誘導結合プラズマ発光分光分析装置、誘導結合プラズマ―質量分析装置を用いた機器分析法とジフェニルカルバジドという六価クロムと特異的に反応する試薬を用いた吸光光度法があります。機器分析法では六価クロムと三価クロムを分別して測ることができないので、あらかじめ六価クロムと3三価クロムを分離してから測る必要があります。最も用いられる方法は、鉄共沈による分離法です。硫酸アンモニウム鉄(III)溶液を加え弱アルカリ性にすると三価クロムが水酸化クロムとなって沈殿するので、沈殿をろ過した後ろ液を分析します。
最後に
2020年4月に水道法が改正され、六価クロムの基準が強化されました。これを受け2022年4月に公共用水域の環境基準が強化されました。通常、公共用水の基準が強化されると、土壌の環境基準や工場からの排出基準も強化されます。改正の情報はホームページなどでお知らせします。
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参考資料
【環境省】化学物質ファクトシート 2012年版
【国土交通省】六価クロム
【日本作業環境測定協会】作業環境測定の基礎知識