WET試験とは?(後編) ~試験の概要とその評価~

 

前編ではWET試験の経緯や実施するメリット、各国の試験に対する動向についてお話ししました。今回は、試験の概要やその結果に対する評価についてお話ししたいと思います。

前編はこちらから↓
WET試験とは?(前編) ~試験を実施することのメリット~

目次
1.WET試験の種類
2.各試験概要について
2-1.サンプリング試料について
2-2.胚・仔魚期の魚類を用いる短期毒性試験法
2-3.ニセネコゼミジンコを用いるミジンコ繁殖試験法
2-4.淡水藻類を用いる生長阻害試験法
3.評価について
4.最後に

WET試験の種類

生物を用いた一般毒性試験は、急性と慢性があり、WET試験は慢性影響試験に該当します。慢性影響試験は、より低濃度の影響を調べることができ、生物の成長や繁殖等の個体群の維持の指標として信頼度が高いためWET試験に採用されました。試験方法は胚・仔魚期の魚類を用いる短期毒性試験法、ニセネコゼミジンコを用いるミジンコ繁殖試験法、淡水藻類を用いる生長阻害試験法の3種類あります。これは、生態系の中での食物連鎖を想定しており、生産者である藻類、そして1次消費者である甲殻類、2次消費者である魚類が試験の対象種となっています。そのため3種同時に試験を実施することで、生態系のどの地位で影響が生じるかが明らかになります。毒性影響が出てしまった場合は毒性影響の軽減に向けての対処を講じなければなりません。

各試験概要について

サンプリング試料について

サンプリングする水としては、基本的に最終放流水になります。サンプリングした水を5%、10%、20%、40%、80%の5段階に希釈し、0%(排水を含まない水)と合わせてサンプリング後36時間以内に各試験生物を排水にばく露して試験を実施します。

胚・仔魚期の魚類を用いる短期毒性試験法

試験には、ゼブラフィッシュ(Danio rerio)を用います。毒性に対する感受性が高い受精卵を排水にばく露し、最長10日間観察を行います。観察期間中は毎日、生死やふ化の有無、奇形、ふ化後の遊泳異常などを観察・記録します。
試験終了後、生存率ふ化率ふ化後生存率生存指標といった影響指標を算出して毒性影響を評価します。生存指標とは、試料の胚に対する影響(ふ化率)とふ化後の仔魚に対する影響(ふ化後生存率)を総合する指標であり、生存のみでなくふ化に対する遅延の影響も加味した指標です。

ニセネコゼミジンコを用いるミジンコ繁殖試験法

試験には、ニセネコゼミジンコ(Ceriodaphnia dubia)を用います。24時間以内に産まれたミジンコを排水にばく露し、最長8日間観察を行います。観察期間中は毎日、生死の観察や、生後約3日で仔虫を産み始めるため試験に供したミジンコから産まれたミジンコを計数・記録します。
試験終了後、生存率産仔数といった影響指標を算出して毒性影響を評価します。

淡水藻類を用いる生長阻害試験法

試験には、ムレミカヅキモ(Pseudokirchneriella subcapitata)を用います。指数増殖期にあたるムレミカヅキモを排水にばく露します。24、48、72時間後にムレミカヅキモを光学顕微鏡下で計数・記録します。
ムレミカヅキモは指数関数的に増えるため、試験終了後、生長速度生長阻害率といった影響指標を算出して毒性影響を評価します。

評価について

それぞれ算出した影響指標について、対照区(排水を含まない水)と比較して統計学的に有意な低下が認められた最も低い試験濃度を最小影響濃度(LOEC)、その一つ下の試験濃度を最大無影響濃度(NOEC)とします。つまり、排水5%で対照区と比べて有意な低下が認められた場合、LOECは5%、NOECは10%となります。すべての試験濃度において、影響指標値が対照区と有意差が認められなかった場合は、最も高い試験濃度をNOECとします。また、NOECの逆数をとった値をTU(Toxic Unit)とし、TU=100/NOECで算出します。この TU値が10を超えると改善の必要があると判断し、毒性低減対策を講じます。この基準は、放流先で約10倍に希釈されるという想定のもと、排水基準が水質環境基準の10倍に設定されていることに倣っています。毒性低減対策方法は以下の図のような流れになります。

最後に

試験を実施している中で、規制されている個々の化学物質が基準値内であったとしても、WET試験では毒性影響ありという評価もあります。逆に基準値を超過している排水であったとしても、WET試験では毒性影響無しという結果もありました。やはり個別の化学物質のみの規制だけでは、生態系への影響が完全に網羅されているとはいえないことを感じます。これからは化学物質の規制のみではなく、WET試験を実施することで生態環境への配慮に貢献できるのではないかと期待しています。環境保全や生態系の維持に関心がある方はWET試験について一度検討してみてはいかがでしょうか。

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WET試験とは?(前編) ~試験を実施することのメリット~

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