2023.01.19
コラム

化学物質規制の自律的管理への移行 ~事業場はなにをすることになるのか~

厚生労働省は、化学物質による労働災害を防止するため、労働安全衛生規則等の一部を改正しました(令和4年厚生労働省令第91号(令和4年5月31日公布)等)。この改正により、化学物質の個別規制から事業者による自律的管理へ転換されます。

目次
1.はじめに
2.化学物質の個別規制から事業者による自律的管理への転換
2-1.現行制度
2-2.自律的管理とは
2-3.留意事項
2-4.化学物質管理者の選任
3.事業場はなにをすることになるのか
4.最後に

はじめに

労働安全衛生規則等の改正で、化学物質規制がどのように変わるのでしょうか。また、事業場はなにをすることになるのでしょうか。本コラムでは、日本作業環境測定協会兵庫支部で2022年9月に開催された説明会の資料を紹介します。

化学物質の個別規制から事業者による自律的管理への転換

現行制度

現在の制度では、国が危険性や有害性等の高い化学物質を個別に特定して、特定化学物質障害予防規則(特化則)や有機溶剤中毒予防規則(有機則)等により具体的な措置内容設備規制、作業環境測定、健診などを法令で規定し、これを労働基準監督官による監督指導で順守を図っています。

自律的管理とは

現在は、有害性が判明した物質について法規制を追加してきましたが、今後はこの規制物質が増えることはありません。国は、有害な化学物質について、その有害性や関連データを掲載した「安全データシート(SDS)」を公表し有害性に関する情報を提供します。事業者は、これらの物質を取り扱う作業について、リスクアセスメントを行い、その結果に応じて自ら判断して必要な対策を講じ、労働者へのばく露を濃度基準値以下に抑える必要があります。

留意事項

自律的管理への移行は、現在の個別規制物質(特定化学物質、有機溶剤、鉛、粉じん)には当面は適用されません。厚生労働省の「職場における化学物質等の管理のあり方に関する検討会」の報告書によれば、5年後に見直しを行うと記載されています。

現在、リスクアセスメント対象物質は673物質ですが、段階的に増やし約2900物質になります。これらについて、リスクアセスメントを実施する必要があります。

化学物質管理者の選任

リスクアセスメントを行う義務のある化学物質に関して、自律的管理を実施するための事業場の体制として、従来の衛生管理者、産業医、衛生委員会に加えて、事業場ごとにその労働者の中から「化学物質管理者」を選任する必要があります。これは、令和6年4月1日から義務付けられます。

化学物質管理者は、①SDSの確認②リスクアセスメント実施の管理③ばく露防止措置の管理④労働者へのリスクアセスメント結果の周知及び教育⑤記録の作成・保存等を管理する必要があります。

事業場はなにをすることになるのか

化学物質の自律的管理へ事業者が取り組むことは、まず、「化学物質管理者」を指名し、管理体制を整えます。「化学物質管理者」を中心にして、自社で取り扱っている化学物質を洗い出し、そのSDSを入手し有害性を確認します。SDSの情報から、労働者がその物質を取り扱う作業について、どの程度ばく露されているかについてを「リスクアセスメント」を行って評価します。「リスクアセスメント」の結果、労働者の化学物質へのばく露を減らす必要があるときは、「ばく露を減らす対策」を自ら検討して、それを実施します。これらを実施することにより、労働者のばく露を濃度基準値以下に、濃度基準値がない場合はなるべく低く管理する必要があります。

最後に

今回は化学物質規制の自律的管理への移行でまず事業者が取り組むことについてお話しました。濃度基準値がない化学物質の労働者のばく露をなるべく低く管理する義務は令和5年4月、化学物質の労働者のばく露を濃度基準値以下に管理する義務は令和6年に施行されます。その間に関連法規が発出されると思います。その際には情報提供していきたいと考えています。

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参考資料
・【厚生労働省】化学物質による労働災害防止のための新たな規制について
・【(公社)日本作業環境測定協会】「あり方検討会報告」と 化学物質規制の自律的管理への移行

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